ヒップホップ
1970年代のニューヨークで、DJ・Rap・Breakdance・Graffitiの文化とともに生まれた音楽。
どんな音か
ヒップホップの面白さは、歌わずに語る、その語りこそが主役になる点にある。リズムの土台になるのは、ドラムマシンで打ち込んだビートか、既存のレコードから抜き出したドラムのフレーズ(ブレイクビーツ)を繰り返したループだ。BPMは70台から100台が主流で、手拍子を「1・2・3・4」と打つとき、2拍目と4拍目で「パン」と鳴るのがスネア(小太鼓)、その隙間をハイハットが細かく刻む。ラッパーは韻と拍に言葉を合わせ、ピッチではなく言葉のリズムでメロディの役目を担う。メロディを手放したぶん、声の手数——韻の置き方と間——で聴かせる音楽になった。だからこそ、古いレコードのサンプルを組み直すDJの技も、車座で即興の言葉を繰り出す「サイファー」も、グラフィティもブレイクダンスも、すべて一語の「ヒップホップ」のうちに収まっている。
生まれた背景
1973年8月11日、ニューヨーク・ブロンクスのアパートの集会室。ジャマイカ系移民のDJクール・ハークが、レコードのドラム部分(ブレイク)だけを2枚使いで延々と繰り返したのが起点とされる。当時のブロンクスは、黒人居住区への融資を組織的に拒む差別(レッドライニング)や、相次ぐ放火で荒廃していた。若者たちは暴力の代わりに、MC・DJ・ダンス・グラフィティの腕前で張り合った。1979年のシュガーヒル・ギャング『Rapper's Delight』は、ラップを世に広めた最初の大ヒットになった。1980年代半ばのラン・DMCは、ロックと組んでヒップホップをお茶の間にまで持ち込んだ。後半に登場したロサンゼルス近郊コンプトンのN.W.Aは、街の現実をそのまま音にし、パブリック・エネミーは音を社会批評の武器に変えた。1990年代には東海岸の語りを極めたナズ、伝説となったノトーリアス・B.I.G.とトゥパック(2Pac)、西海岸の重低音を築いたドクター・ドレーが現れた。こうして世代ごとに代表的な顔ぶれが入れ替わり、2000年代以降はジェイ・Z、カニエ・ウェスト、ドレイク、ケンドリック・ラマーら一人ひとりが世界規模の存在になった。十年ごとに、この音楽は別の何かに作り変えられてきた。
聴きどころ
ラッパーがどこに韻を置くか(行末か、行の途中か、複数の音節を並べるか)。ベースとキックの噛み合い、ハイハットの細かい刻み(とくに2010年代以降のトラップ系では、ハイハットの速いロールや3連符を含む細かい刻みが目立つ)。使われている元ネタ(ジェームス・ブラウンのドラム、ボビー・コールドウェルのひと声、映画音楽の断片など)に気づくと、元の曲と今の曲が二重に重なって聞こえてくる。
音楽的特徴
楽器ターンテーブル、サンプラー、ドラムマシン、声
リズムブレイクビーツ、4/4、サンプリング
リズムを聴く
このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。
代表アーティスト
- Grandmaster Flash
- Dr. Dre
- A Tribe Called Quest
- Public Enemy
- 2Pac
- Lauryn Hill
- Mobb Deep
- Nas
- Snoop Dogg
- Wu-Tang Clan
- Kendrick Lamar
- Travis Scott
代表曲
- Rapper's Delight (1979)
- The Message — Grandmaster Flash (1982)
- Fight the Power — Public Enemy (1989)
- Juicy (1994)
- HUMBLE. — Kendrick Lamar (2017)
日本との関係
初めて聴くなら
まず韻とサンプリングが完全に噛み合った瞬間を聴きたいなら、Nas『N.Y. State of Mind』(1994)。サンプリングとリリックの密度がここで完成した。最近のものを聴くなら、Kendrick Lamar『DNA.』(2017)。攻めたリリックの密度と勢いで、2010年代後半のラップの空気感を一発でつかめる。さらに深く入るなら、同じケンドリックのアルバム『good kid, m.A.A.d city』(2012)。日本語で入るなら、Creepy Nuts『Bling-Bang-Bang-Born』。TVアニメの主題歌として世界的にバズった一曲で、日本語ラップがアニメ経由で世界に届いた好例だ(ビート自体はジャージークラブ寄りで、典型的なヒップホップの拍とは少し違う)。
豆知識
「Hip-Hop」という言葉は、グランドマスター・フラッシュ&ザ・フューリアス・ファイブのMCキース・カウボーイが1978年頃、ステージで兵隊の行進の掛け声を真似て「ヒップ・ホップ」とリズムをつけて口にしたのが原型と言われる。「ターンテーブリスト」(レコードの回転盤=ターンテーブルを楽器のように操る人)という呼び名は、1990年代半ばにDJ Babu(ビート・ジャンキーズ)が広めたとされる。
影響・派生で結ばれたジャンル
- K-pop
- ソウル
- レゲトン
- アフロビーツ
- コリードス・トゥンバドス
- トラップ
- ネオソウル
- K-ヒップホップ
- イタリア語ラップ
- グライム
- ドイツ語ラップ
- パンジャーブ・ポップ
- フランス語ラップ
- ロシア語ラップ
- ローファイ・ヒップホップ
- V-POP
- スウェーデン語ラップ
- トラップ・アルヘンティーノ
- トリップ・ホップ
- バルカン・トラップ
- ボンゴ・フラヴァ
- ボンゴ・フラヴァ
- ポルトガル語ヒップホップ
- ポーランド語ラップ
- ゲンゲトーン
- スイスドイツ語ラップ
- フィンランド・ポップ
- Gファンク
- LAビート・シーン
- ウォンキー
- クラウドラップ
- グリッチ・ホップ
- コンテンポラリーR&B
- ヒップライフ
- ブーンバップ
- プランダーフォニックス
