ヒップホップ・R&B

バルカン・トラップ

Balkan Trap

アルバニア / 中東・北アフリカ · 2018年〜

アルバニア・コソボ・北マケドニア発の現代バルカン・トラップ。Dua Lipa(英国アルバニア系)、Loredana、DJ Gimi-Oら。

どんな音か

Atlanta産のトラップの低音と高速ハイハットに、バルカン半島の旋律と打楽器が重なる。アルバニア語、セルビア語、マケドニア語、時に英語が同じ曲内で切り替わる多言語ラップ。チョチェック(バルカンのブラスバンド音楽)由来の不均等拍子(7/8、9/8)がトラップの4/4にぶつかる瞬間が最高に楽しい。シンセ・トランペットや、サンプリングされたツルラ(ダブルリード管楽器)の鋭い音が、808ベースの上に乗る。テンポは130〜150BPM、踊らせる気満々の設計。

生まれた背景

舞台はアルバニア、コソボ、北マケドニア、セルビア南部。1990年代のユーゴ紛争を経て、アルバニア系の若者は欧州各地(特にスイスドイツ、ベルギー、イギリス)に大量に移住した。そのディアスポラ世代がトラップを母語に翻訳し始めたのが2010年代後半。コソボの首都プリシュティナと、スイス系アルバニア人のスタジオがハブになっており、低予算で世界中に拡散する仕組みができあがった。Dua Lipaは英国生まれのアルバニア系で、彼女の成功がジャンル全体への注目を後押しした。

聴きどころ

まず打楽器に注目。Atlanta産トラップの808とハイハットの上に、バルカンのトラディショナル・パーカッションのループが乗ることが多く、両者が出会う瞬間に独特の体感が生まれる。次にメロディ、マイナースケールが基本だが、東欧特有の増2度音程(メロディが半音3つ分跳ねる感じ)が随所に入る。歌詞はマフィア、家族の誇り、移民の苦労、女性関係といったテーマが定番。MVは黒いベンツ、深夜のチューリッヒやプリシュティナの街路、ロレックス、そしてアルバニアの双頭の鷲が必ず映る。

代表アーティスト

  • Noizyアルバニア · 2006年〜
  • Loredanaコソボ · 2018年〜
  • DJ Gimi-Oコソボ · 2019年〜

代表曲

日本との関係

Dua Lipaの大ヒット以降、彼女のルーツとしてアルバニア音楽が日本でも紹介されるようになった。ただしバルカン・トラップ本体への接点はまだ薄い。DJ Gimi-Oの『Habibi』(2020年)がTikTok経由で世界的にバイラル化し、日本のTikTokでも一時的にダンス動画のBGMとして使われた。日本国内ではアルバニア系コミュニティが極めて小さく、専門のクラブイベントもほとんどないが、ロシア/東欧系の音楽ファンとEDM/トラップ・リスナーの両方が交差する地点で発見されつつある。

初めて聴くなら

まずDJ Gimi-Oの『Habibi』、これは入門曲で、TikTokで耳にしたことがある人もいるはず。次にLoredanaの『Sonnenbrille』、スイス系コソボ人ラッパーで、ドイツ語まじりの楽曲が特徴。三曲目はNoizyの楽曲、アルバニアン・トラップのドンと呼ばれる存在。深夜のドライブ、もしくはジムでウェイトを上げるときに合う、テンションを上げる設計の音楽。

豆知識

DJ Gimi-Oの『Habibi』のサビ部分は、実はチュニジア人歌手Balti & Hamoudaの『Sidi Mansour』のメロディを下敷きにしており、アラブ世界とバルカン世界の旋律が地中海を挟んで響き合っていることが分かる。またDua Lipaは2022年、コソボのプリシュティナで主催したフェス『Sunny Hill Festival』にDiplo、J Balvin、Stormzyを呼び、コソボを音楽地図に正式に書き込んだ。バルカン半島がトラップの新しい辺境ではなく、もう一つの中心地になりつつある証拠。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1970年代2000年代2010年代バルカン・トラップバルカン・トラップヒップホップヒップホップトラップトラップ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
バルカン・トラップを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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