伝統・民族
コリードス・トゥンバドス
Corridos Tumbados
メキシコ / 中南米・カリブ · 2017年〜
別名: Corridos bélicos / Sierreño-trap
メキシコの伝統的コリードにヒップホップ要素を加えた現代ジャンル。Peso Pluma、Natanael Cano、Fuerza Regida、Junior Hらが2020年代に世界的成功。
どんな音か
テンポ80〜100BPMの中速で、表向きはメキシコの伝統音楽コリードの編成(バホ・セクスト、トゥバ、レキント、アコーディオン)を保ちながら、ヒップホップ/トラップの808ベースとトラップ的なハイハットの細かい刻みを忍ばせる新世代ジャンル。歌は喉を絞り気味に、語りかけるラップに近いフロウで進行し、サビでメロディを開く。歌詞は麓町(バリオ)の生活、ナルコ文化、富、ロマンスを率直に描き、ストリングスやピアノで叙情を足す曲も多い。録音はクリアで、低域は深く沈むのに、ホーンや弦は乾いた響きを保つ。
生まれた背景
メキシコ北西部シナロア州や、米カリフォルニア州・テキサス州のメキシコ系コミュニティが震源地。2010年代後半、Natanael CanoがレーベルRancho Humilde(LA拠点)と組み、伝統的コリードをトラップ感覚で再構築した「コリードス・トゥンバドス」を打ち出したのが直接の起点。2020年代に入りPeso Pluma、Fuerza Regida、Junior Hらが続き、TikTokでの拡散とSpotifyのラテン市場拡大を背景に、2023年にはPeso Pluma & Eslabón Armadoの『Ella バイラ Sola』がBillboard Hot 100の4位、Spotifyグローバル週間チャートでも上位に達した。
聴きどころ
聴きどころはまず、トゥバ(金管低音楽器、ボン、ボンと一拍ずつ鳴る)が担うベースラインと、トラップ的な808のサブベースが共存する低域の二重構造。ドラムが入らない曲も多く、ハイハットや指パッチンだけでリズムを保つ「アコースティック・トラップ」的な質感も独特。バホ・セクスト(12弦の伴奏ギター)の和音の鳴り、レキント(高音域のギター)のオブリガート、そして歌の語尾でわずかに揺らすメキシコ的なこぶしも耳を澄ますと面白い。
代表アーティスト
- Fuerza Regidaメキシコ · 2015年〜
- Natanael Canoメキシコ · 2018年〜
- Peso Plumaメキシコ · 2020年〜
代表曲
Soy El Diablo — Natanael Cano (2019)
Ella Baila Sola — Peso Pluma (2023)
TQM — Fuerza Regida (2023)
日本との関係
日本での流通は限定的だが、Peso Plumaの『Ella バイラ Sola』はTikTok経由で日本のティーン層にも届いた。Spotifyのバイラル・チャートに2023〜2024年にかけて断続的にチャートインしている。J-POPでの直接的な影響は薄いが、ラテン系のリズムが好きなDJ/プロデューサー層が個別に注目している段階。映画やドラマの劇伴で耳にする機会も今後増えそうな勢いがある。
初めて聴くなら
最初の一曲はPeso Pluma & Eslabón Armadoの『Ella バイラ Sola』で決まり。トゥバの低音、レキントのキラキラした上音、ラップ的な歌唱、すべてが二分半に詰まっている。次にNatanael Canoの『Soy El Diablo』を聴くと、ジャンル創設期の生々しい姿が見える。Fuerza Regidaの『TQM』はクラブ寄りでビートが強め。昼下がりのドライブや、屋外でビールを開けるBBQに似合う、空の広いサウンド。
豆知識
「Tumbado」はスペイン語で「横たわった」「だらけた」の意。直訳すれば「寝そべったコリード」で、伝統的コリードの直立した勇ましさを脱力させた、というニュアンス。Natanael Canoはこのスタイルを始めたとき18歳。Peso Pluma(本名Hassan Emilio Kabande Laija)は2023年、ジミー・ファロンの『Tonight Show』にスペイン語のまま出演し、英語圏のラテン音楽受容のあり方を一段押し上げた。歌詞のナルコ描写を理由に、メキシコの一部州ではライブ会場での演奏が制限されている曲もある。
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