ヒップホップ・R&B

イタリア語ラップ

Italian Rap / Sanremo Pop

イタリア / 西欧 · 1990年〜

別名: Trap italiano

イタリア語ラップ/トラップ。Marracash、Sfera Ebbasta、Lazza、Geolier(ナポリ語)など、地域言語ヴァリエーション豊か。

どんな音か

イタリア語ラップは、ミラノ・ナポリ・ローマ・トリノの都市文化から立ち上がったイタリア語のヒップホップトラップを指す。BPMは130〜145の808トラップが中心で、Sfera Ebbastaが定着させた「冷たく光るシンセ+強い808」が標準サウンドになっている。イタリア語の歯切れの良い子音、母音で終わる単語の連続、二重子音の弾むような響きが、トラップのハイハットと噛み合うとラテン語族特有の弾力が出る。Marracashの語りに近い低音、Lazzaのピアノ/クラシック素養を活かしたメロディアスな書法、ナポリ語で歌うGeolierの土着的なフロウまで、地域ごとに音の色が違うのも面白い。

生まれた背景

イタリアヒップホップはもともと1990年代に左翼的なソーシャルセンター(centro sociale)から始まったが、現在の主流であるトラップへの転換点は2015年前後だ。Sfera Ebbastaがミラノ郊外チニゼッロ・バルサモから登場し、アルバム『Rockstar』(2018) でストリーミング1位を制した瞬間に、ラップがイタリアのポップス市場の中心に座った。背景にあるのは、北アフリカ系・東欧系・南米系の移民第二世代の都市集住と、SpotifyによるUSトラップの即時流入だ。一方ナポリでは、Liberatoの匿名性ある電子ポップとGeolierの強いナポリ語ラップが並行し、ローカル言語のラップが全国チャートに普通に上がる風景が定着した。

聴きどころ

まずイタリア語の二重子音に注目してほしい。「mamma」「tutto」「bello」のように同じ子音を二度叩く瞬間が、トラップのスネアと同じリズム要素として機能する。次にMarracashの低い語り口で、ほぼ歌わずに韻だけで運ぶ手つきは、USのKendrickよりむしろフランス語ラップに近い。三つ目はGeolierのナポリ語の閉じた響きで、標準イタリア語より母音が暗く曇り、ナポリ民謡の節回しがそのまま808の上に乗る。Lazzaのピアノ系トラップではクラシック音楽院出身の和声感覚が滲み、トラップにヨーロッパ的な憂いを足している。

代表アーティスト

  • Marracashイタリア · 2005年〜
  • Sfera Ebbastaイタリア · 2015年〜
  • Geolierイタリア · 2018年〜

代表曲

日本との関係

日本での認知は限定的だが、Måneskinが2021年のユーロビジョンで優勝した波及で「イタリアの若い音楽」全般への関心がいっとき上がり、その流れでSfera EbbastaやLazzaが一部の音楽ファンに発見された。アニメや日本映画との直接の接点はまだ少ない。一方、東京のセレクトショップやヴィンテージ系のミラノ/ナポリのストリートファッションを扱う店ではBGMとしてイタリアトラップが流れることが増え、視覚と音が一緒に入ってくる入口がある。日本のラッパーが直接影響を受けた例は目立たないが、KANDYTOWNが好むヨーロッパ寄りのメロディトラップの空気は、イタリア語ラップと隣接している。

初めて聴くなら

入口はSfera Ebbasta『Rockstar』。シンセの冷たい煌めきとイタリア語の弾むフロウが両方分かる一曲だ。もう少し大人びた語りが聴きたいならMarracash『Crudelia』、ピアノが効いた壮大なトラップならLazza『Cenere』。ナポリ語の渋い響きを試したい人はGeolier『I P M Geolier』。深夜の高速道路で流すと光る都市の空気と合う音楽で、明るい昼に聴くというよりは、夜の窓辺かバーで小さく流すほうがイタリア語の母音が映える。

豆知識

「Trap」という言葉がイタリアでは英語のままジャンル名として定着し、若いリスナーの間ではほぼ「ラップ=トラップ」という認識に近い。ミラノ郊外のチニゼッロ・バルサモ、ローマのトールヴェルガータ、ナポリのセコンディリャーノなど、シーンの拠点は治安や経済の問題を抱える郊外であることが多く、ラップが「外から見えない場所の声」を媒介するという構図は他の欧州諸国と同じだ。もうひとつ豆知識として、イタリア最大の音楽賞であるサンレモ音楽祭にもラッパーが普通に出場するようになり、Mahmood(イタリアエジプト系)の2019年優勝以降、移民ルーツのアーティストが「イタリアの顔」として並ぶ風景が一般化した。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1970年代1990年代2000年代イタリア語ラップイタリア語ラップヒップホップヒップホップトラップトラップ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
イタリア語ラップを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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