プランダーフォニックス
John Oswaldが1985年に造語した、既存録音を素材として再構成する音楽の総称。
どんな音か
既存の録音(商業音楽・クラシック・映画音楽など何でも)をそのまま「素材」として切り出し、速度変化・逆再生・重ね合わせ・ピッチ変換・コラージュで新しい作品を作る。サンプリングとの違いは、原素材が「聴いてわかる」レベルで保たれていることが多い点だ——マイケル・ジャクソンの「Bad」を原型のままスローダウンしてピッチを変え、全く別の質感で提示するJohn Oswaldの「Dab」(1989年「Plunderphonic」収録)のように。The Avalanchesの「Since I Left You」(2000年)は10年分のレコードコレクション(推定900〜3500枚)からサンプルを切り出して1枚のアルバムを作り上げた。
生まれた背景
カナダの作曲家John Oswaldは1985年のエッセイ「プランダーフォニックス, or Audio Piracy as a Compositional Prerogative」で、著作権保護された録音を素材として使う音楽実践に「プランダーフォニックス(略奪音楽)」という名を与えた。1989年に無償配布したCDアルバム「Plunderphonic」は、ポール・マッカートニーやマイケル・ジャクソンの曲を大胆に改変した内容だったため、カナダ録音工業協会から法的圧力を受け、プレス盤は廃棄された。2000年代以降はGirl TalkやDanger Mouseの「The Grey Album」(Jay-Zのア・カペラとビートルズのホワイト・アルバムを合体させた2004年の作品)が広くそのコンセプトを継承した。
聴きどころ
John Oswaldの「Plexure」(1993)では1秒以下のサンプルが数百個接続されており、元の曲を識別しようとする脳の動きと、それが常に裏切られる感覚の連続が体験できる。The Avalanchesの「Since I Left You」は対照的にサンプルの継ぎ目が気にならないほど滑らかで、知ってる曲のはずなのにどこかわからない——という既視感と新鮮さの同時体験だ。
発展
Mash-up culture、Vaporwave、Hauntologyの源流として位置付けられ、2010年代以降のサンプリング文化に深い影響を与えた。
出来事
- 1985: Oswald論文 / 1989: 『Plunderphonic』 / 2000: The Avalanches『Since I Left You』
派生・影響
Mash-up、Vaporwave、Sampledelia、Hauntology。
音楽的特徴
楽器サンプラー、テープ、DAW
リズム可変、サンプリング再構成
代表アーティスト
- John Oswald
- The Avalanches
- Danger Mouse
- Girl Talk
代表曲
- Frontier Psychiatrist — The Avalanches (2000)
- Since I Left You — The Avalanches (2000)
All Day — Girl Talk (2010)
Plunderphonic — John Oswald (1989)
Plexure — John Oswald (1993)
日本との関係
日本では著作権法上のサンプリング使用が長らく厳しく、プランダーフォニックスのような実践は商業的に困難だった。それでも電気グルーヴやDJ SHADOWへの言及の文脈でサンプリング文化は知られており、音楽批評の世界ではGirl TalkやDanger Mouseは参照される存在だ。コンクリート・ミュージック(ミュージック・コンクレート)研究の文脈で武満徹の論考が関連して読まれることもある。
初めて聴くなら
The Avalanchesの「Frontier Psychiatrist」(2000)の映像版から入ると、音楽の面白さと映像の荒唐無稽さが合わさって「素材の転用」という概念が直感的につかめる。続けてGirl Tankの「All Day」(2010)を30分かけて聴くと、ポップミュージックのアーカイブをパッチワークした感覚のスケールが体験できる。
豆知識
Danger Mouseが2004年にオンラインで無料公開した「The Grey Album」はJay-Zの「ブラック・アルバム」のア・カペラとビートルズ「ホワイト・アルバム」のサンプルを組み合わせた作品で、EMIから直ちに法的警告を受けた。これに対抗してインターネット上で「Grey Tuesday」という一斉公開デモが起こり、1日で100万回以上のダウンロードが記録された。著作権と音楽創作の関係をめぐる象徴的な事件として現在も引用される。
