ヒップホップ・R&B

ロシア語ラップ

Russian Rap / Trap

ロシア / 北欧・東欧 · 2010年〜

ロシア語ラップ/トラップ。MACAN、Egor Kreed、Oxxxymiron、Instasamkaら。2022年の欧米レーベル撤退後、自国市場を完全に支配。

どんな音か

ロシア語で歌われるヒップホップトラップ/メロディラップ。BPMは70〜140まで幅広く、Morgenshtern、MACAN、Bushido Zho、Pharaohらが2020年代の中心。ロシア語の硬質な子音(「ж」「ш」「щ」「ч」)と、印欧語族らしい長い単語が、ラップのフロウに重さを与える。サウンドはアメリカ合衆国トラップを基礎に、東欧的哀愁メロディと、時折スラブ民謡的なマイナーキーが顔を出す。録音は低域が深く沈み、シンセは冷たく金属的、全体に「氷の上」のような質感が漂う。

生まれた背景

ロシア・ヒップホップは1990年代後半のPasha Tehnik、Bad Balanceから始まり、2010年代にOxxxymiron(イスラエル系英語教育、Battle Rap出身)、Husky(クラスノヤルスク出身のストリート派)が二大潮流を作った。決定的な変化は2014年のクリミア併合後で、政府による表現規制が強まる中、ラップが「政治を語れる場」として若者世代の重要な発信路になった。2022年のウクライナ侵攻後、Oxxxymironらは亡命してロンドンで反戦活動、政府寄りラッパーは国内で活動を継続、という分裂状態が現在も続いている。

聴きどころ

ロシア語特有の摩擦音と長母音にまず耳を傾けてほしい。「пожалуйста(プラジャールスタ、お願いします)」のような長い単語が、ラップの2小節を一気に消費する瞬間がある。Morgensternの楽曲では、過剰なオートチューンと派手な808が「ロシアらしい派手さ」を作り出す。MACANはより落ち着いた歌唱で、ロシア東欧的なメロディの哀愁を前面に出す。Oxxxymironの楽曲は文学的で、プーシキンやマヤコフスキーの詩の引用がそのままラップに溶け込む知的な構造。

代表アーティスト

  • Oxxxymironロシア · 2011年〜
  • Morgenshternロシア · 2017年〜
  • MACANロシア · 2020年〜

代表曲

日本との関係

日本でのロシア語ラップの認知は皆無に近いが、ロシア音楽愛好家のごく一部、東京・池袋のロシア料理店、サンクトペテルブルク留学経験者経由で発見されている。t.A.T.u.(2002年)の世代的記憶はあるが、現代のロシア語ラップとは別物。日本側からの応答はないが、舐達麻やKohh的な暗いトラップを好む耳には、MACANの楽曲が違和感なく届く。プーチン政権下の表現の自由の問題から、日本のメディアで紹介される機会は限定的。

初めて聴くなら

最初の一曲はMorgenshtern『Cadillac』(2020)、Eldzhey との共作で、派手な808とロシア語のフロウを一発で体験できる。次にMACAN『Underwater』、より深いメロディラップの世界。Oxxxymiron『Полигон』(2022年の反戦ラップ)は政治的な重みがあり、現在のロシア・ラップが置かれた状況を象徴する。深夜の電車、雪の街、冷たい部屋で聴くと響く。

豆知識

Oxxxymironは本名Miron Fyodorov、母親はソ連時代の物理学者で、家族でイギリスに亡命して育った。彼はオックスフォード大学英文学卒業という稀有な学歴を持つロシア・ラッパー。2017年のロシアン・バトル・ラップ大会「Versus Battle」でのOxxxymiron vs Slava KPSSが世界的YouTube現象(再生数3000万超)になり、ロシア語ラップを世界に知らしめた。Morgenshternは2021年に銃と麻薬の所持で起訴され、現在はドバイ在住で活動を継続している。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1970年代2000年代2010年代ロシア語ラップロシア語ラップヒップホップヒップホップトラップトラップ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ロシア語ラップを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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ロシア · 2010年前後 (±25年)

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