ヒップホップ・R&B

フランス語ラップ

French Rap

フランス / 西欧 · 1985年〜

別名: Rap FR / French hip-hop

フランス語ラップ。北アフリカ・サブサハラ系移民コミュニティが本流に合流する独特の構造。Aya Nakamura、SCH、PNL、Damso、Booba等。

どんな音か

フランス語ラップは、パリ郊外(バンリュー)やマルセイユ、ブリュッセルを発信源とするフランス語のヒップホップ全般を指す。USラップに比べてBPMはやや遅めで、85〜95あたりに落とし込むビートが多い。鼻にかかるフランス語の発音、長く伸ばす母音、巻き舌の「R」が、トラップの硬いハイハットと噛み合うと独特のグルーヴが立つ。SCHのような濁ったオートチューン、PNLの宇宙的なクラウドラップ、Damsoの息で詰める語り口、Booboらの古典的なブームバップまで、フランス語の音韻に合わせてサウンドの幅が広い。Aya Nakamuraの『Djadja』のように、ラップ/R&B/アフロビーツが滲み合う曲も主流に入る。

生まれた背景

ジャンルの起点は1980年代後半、MC SolaarやIAM、NTMが「フランス語で韻を踏めるか」という実験から始めた。90年代にバンリューの団地(cité)が舞台のフランス映画『憎しみ』が世界的に話題になり、そこで描かれた怒りと閉塞感がそのままラップの主題になった。2000年代以降、北アフリカ(マグレブ)系、サブサハラ・アフリカ系、カリブ系の二世・三世が大量に流入し、彼らの家庭で鳴っていたライ、ズーク、コンパアフロビートが、フランス語ラップのビート選びを根本から書き換えた。今のフランス語ラップを聴くとアフリカが鳴っているのはそのためだ。

聴きどころ

まず「R」の擦過音に耳をすませてほしい。Damsoの『Macarena』、SCHの『Mannschaft』では、巻き舌や喉の奥で擦るRが、ハイハットと同じ役割でリズムを刻む。次に語尾の処理で、フランス語は子音で終わらず母音を伸ばす言語なので、ラインの最後が「〜é」「〜a」と伸びてビートに溶ける。三つ目はビートのもったり感で、USトラップより一拍遅く感じるのは意図的だ。歌詞の意味は分からなくても、母音の長さとビートの引きずり方を追うだけで、フランス語ラップ特有の倦怠感と色気が伝わってくる。

代表アーティスト

  • SCHフランス · 2013年〜
  • Aya Nakamuraフランス · 2014年〜
  • Damsoベルギー · 2015年〜

代表曲

日本との関係

日本ではStromaeの『Alors on danse』がフレンチエレクトロとして紹介されて以降、フランス語ラップ/R&Bが時折TikTok経由で広まる。Aya Nakamuraの『Djadja』は2019年ごろから日本のクラブやSNSで再生され、彼女の名がいつの間にか日本でも知られた。マルチアーティストのShay、Lous and the Yakuzaも一部のリスナーに刺さっている。日本側の応答としては、KANDYTOWNやBADHOPの一部メンバーがフランスのCloud trap的な湿った音響に共感を語ることがあり、舐達麻の世界観もPNLの遠い親戚と言える。フランス語の意味は届きにくいが、音の質感は確実に日本のシーンに染みている。

初めて聴くなら

入口の一曲はAya Nakamura『Djadja』。アフロビーツのうねりとフランス語の鼻音が混ざる感覚はここで覚えるのが早い。もう少しラップ寄りに踏み込むならSCH『Mannschaft』、SoundCloud時代のクラウド感が好みならPNL『Au DD』。後者はパリ・ラ・デファンスの高層ビル屋上から撮ったMVも込みで体験すると、フランス語ラップの「孤独で美しい」側面が掴める。深夜の運転やヘッドホンで街を歩く時間に向く音楽で、クラブで盛り上がるより、ひとりで歌詞を追う形のほうがしっくりくる。

豆知識

フランスには1996年に施行された「ラジオで放送される歌の40%以上をフランス語にせよ」という言語クォータ法があり、これがフランス語ラップの巨大化を陰で支えている。仏語で書けば確実にラジオに乗るので、英語ラップに直接駆逐されずに済んだ。もうひとつ、Marseilleの13 Orgで知られるSCHや、ブリュッセル出身のDamso、Hamza、Lousらが示すように「フランス語ラップ」の本拠地は実は単一ではない。ベルギーのワロン語圏とパリの双方向のやり取りが、今のシーンの厚みを作っている。

影響・派生で結ばれたジャンル

フランス語ラップを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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フランス · 1985年前後 (±25年)

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