ポップ

V-POP

Vietnamese Pop

ベトナム / 東南アジア · 2000年〜

ベトナム発のポップ音楽。2010年代後半からRap Việtを経由したヒップホップ寄りの作品が台頭。

どんな音か

V-POPベトナム語で歌われるポップスの総称で、2020年代以降は欧米的なトラップ・R&Bの作法を完全に取り込んだサウンドが主流になっている。BPM90前後のメロウなトラップに鼻にかかった甘い男声を乗せるバラード型と、Sơn Tùng M-TPが切り拓いたシンセ煌めくダンスポップの二系統が太い柱で、声調言語ベトナム語特有のメロディの跳ね方が、英語ポップとは違う独特のフックを生む。録音はソウル経由のクリーンで広いミックスが好まれ、サビでスネアを抜いて声を浮かせる「タメ」の作り方は東アジア共通の感覚に近い。

生まれた背景

ベトナム経済が二桁成長を続けた2010年代、ホーチミンとハノイの若者がスマホでK-POPとUSヒップホップを浴びるように吸い込み、それを母語で返したのがいまのV-POPの空気だ。テレビ局主導の歌謡曲時代を一気に飛び越え、YouTubeとTikTokがチャートそのものになった。決定打は『Rap Việt』(2020〜)の爆発で、地方訛りで韻を踏むラッパーが一夜で国民的スターになる回路が出来上がり、HIEUTHUHAIのようなZ世代アイドル・ラッパーが登場した。社会主義国家の検閲線をすれすれで縫いながら、恋愛と都市生活のリアルを歌う、いま最も勢いのある東南アジアの音だ。

聴きどころ

まず声調の扱いに耳を澄ませてほしい。ベトナム語は六声あるので、メロディが言葉の上下に縛られる瞬間と、あえて声調を裏切ってフックを作る瞬間が混在する。Sơn Tùng M-TPのファルセットは典型で、語尾を上げ切らずに溶かす癖がベトナム的だ。トラックの方は、USサウスのトラップを土台にしながら、笛や月琴の音色をワンフレーズだけ差し込む曲が増えていて、その「一瞬の民族色」が判別ポイント。ラップ勢はフロウが速く、英語のラッパーより母音を立てて歌うので、意味は分からなくても韻のキレが体感できる。

代表アーティスト

  • Sơn Tùng M-TPベトナム · 2012年〜
  • HIEUTHUHAIベトナム · 2018年〜
  • MONOベトナム · 2022年〜

代表曲

日本との関係

日本での流通はまだ薄いが、ベトナム人技能実習生・留学生のコミュニティを通じてカラオケDAMの一部店舗にV-POPのリストが入っており、ベトナム料理店のBGMで耳にする機会は確実に増えている。Sơn Tùng M-TPは2019年に東京で単独公演を成功させていて、在日ベトナム人だけでなく日本のK-POPファンも一部流れ込んだ。ファッション系YouTuberのBGMやTikTokの踊ってみた素材として、HIEUTHUHAIやMONOの曲が日本のZ世代タイムラインに静かに流れ込み始めている段階だ。

初めて聴くなら

最初の一曲はSơn Tùng M-TP『Chúng Ta Của Hiện Tại』(2020)。夜のドライブで窓を開けて聴くと、ベトナム的なメロウさがいちばん分かる。アップな気分ならHIEUTHUHAI『Không Thể Say』のラップ・ポップで、TikTok由来の口ずさみやすさが強い。バラード派にはMONO『Waiting For You』を勧めたい。英語サビ混じりなので、ベトナム語が初めてでも耳が拒まない入口になる。

豆知識

V-POP」という呼称が定着したのは実はかなり最近で、2000年代までは「nhạc trẻ(若者の音楽)」と呼ばれていた。Sơn Tùng M-TPはデビュー初期にSKY-EというプロデューサーがK-POPのトラックに酷似していると炎上したが、その騒動を逆手に取って自前のレーベルM-TP Entertainmentを立ち上げ、いまや在ベトナム最強のIPになった。『Rap Việt』はベトナムテレビ史上最高視聴率を更新した音楽番組で、優勝者の賞金は10億ドン(約600万円)。社会主義国家でラップが国民番組になった珍しい例だ。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1970年代1980年代1990年代2000年代V-POPV-POPヒップホップヒップホップJ-POPJ-POPK-popK-popトラップトラップ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
V-POPを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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