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伝統・民族

ドイツ語ラップ

German Rap

ドイツ / 西欧 · 1990年〜

ドイツ語ラップ。Apache 207、RAF Camora、Ski Aggu、Capitalらが現代を代表。トルコ系移民ラッパーも本流に合流。

どんな音か

ドイツ語ラップは、ベルリン・フランクフルト・ハンブルクなどの大都市から発信されるドイツ語のヒップホップトラップ全般を指す。だが面白いのは音そのものより、誰がそれを歌っているかだ。移民の子が話す街の言葉が、そのままドイツの主流ポップの語彙になっている。音は1分間に130〜150拍ほど(トラップに典型的な速さ)が主流で、重く沈む低音(ヒップホップ定番の808ベース)に金属的なシンセがきしむように重なり、その上を抑えた歌メロが進む。主役はApache 207——低い地声でメロディを転がし、夏の夜気のような憂いを乗せる。ほかにも東欧訛りを響かせるCapital Bra、レゲトンのうねるリズムを持ち込んだオーストリアのRAF Camora、ドイツの大衆歌謡『シュラーガー』(日本の昭和歌謡に近い)を遊び心たっぷりに作り直すSki Agguと、同じシーンの中に多彩な声が同居する。

生まれた背景

ドイツ語ラップは、90年代前半のFanta 4がドイツ語で韻を踏むことを定着させ、90年代後半のKool Savasらがそれを尖らせた。2000年代にはAggro Berlinが「ベルリン産ストリート」を売り出して市場が拡大する。決定打になったのは2010年代後半のトラップの流行だ。ハンブルクの187 StrassenbandeやそのメンバーBonez MCが鳴らした、レゲエダンスホールを溶かし込んだメロディアスで陰のあるトラップが若者層に刺さった。背景には移民第二・第三世代の存在がある。トルコ系、クルド系、旧ユーゴ系、レバノン系の若者が郊外の団地(ドイツ語でSiedlung)から発信し、彼らの話し言葉がそのままドイツ語ラップの言葉づかいを形づくった。

聴きどころ

まず808のベースが「ボンッ」と一拍長く伸びる感触に耳を向けてほしい。この低音がアメリカ合衆国トラップより一段重く沈むのが、ドイツ語ラップ独特の手触りだ。次にメロディの扱いで、Apache 207やBonez MCは音程をはっきり取りすぎず、半分しゃべるように転がす。三つ目は韻と発音で、トルコ語やアラビア語由来の単語、ベルリン訛りの「icke」「wa」などが混ざる瞬間に、このシーンの出自がはっきり見えてくる。歌詞の意味が分からなくても、子音の硬さと言葉の切り方を追うだけで、このシーンの体温が伝わってくる。

代表アーティスト

  • RAF Camoraオーストリア · 2005年〜
  • Shirin Davidドイツ · 2018年〜
  • Apache 207ドイツ · 2019年〜

代表曲

日本との関係

日本での流通量は英語ラップやフランス語ラップに比べて少なく、CDショップで棚を確保しているとは言いがたい。一方でTikTokを経由してApache 207の『Roller』やShirinの『Bon Voyage』が短期間バズり、ヨーロッパ旅行帰りの若者が知っているという形で入ってくる例は増えている。日本側からの直接の応答はまだ限定的だが、舐達麻やKohhのようなアーティストが好むダークで湿ったトラップの質感は、ドイツのCloud trap勢と耳の隣にある。Berghainやサウンドシステム文化への憧れを通じて、東京のクラブDJがBonezをかける場面も少しずつ出てきた。

初めて聴くなら

最初の一曲ならApache 207『Roller』が分かりやすい。低い地声の歌メロに夏の夜気がにじむ曲で、ドライブや帰り道に流すと風景が少し物悲しく見えてくる。次に進むなら、もう少し攻撃的なBonez MC & RAF Camora『Mörder』、ポップに振りたいならShirin David『Ich darf das』あたり。Ski Aggu & Joost『Friesenjung』は、ドイツ語が分からなくてもサビの抜けの良さで踊れるネタ曲だ。クラブで鳴らすより、夜の電車かヘッドホンで一人、というのが似合う。

豆知識

「Deutschrap」という呼び方は、業界が決めた用語ではなく、ストリーミング時代のプレイリスト名から自然に広まった。2018年から2025年まで最大の登竜門だったのがSpotifyの公式プレイリスト「Modus Mio」で、ここに入った曲は週単位でチャートを駆け上がった(2025年秋に終了し、後継は「Deutschrap Hits」)。もうひとつ面白いのは、ドイツのラッパーの多くが本名ではなく数字や移民ルーツを名乗りに使うことだ。たとえば187はハンブルクの地区番号だ。同時にアメリカ合衆国では殺人を指す隠語でもあり、これはカリフォルニア州刑法で殺人罪を定めた条項の番号に由来する。担い手の出自も国境をまたぐ。RAF Camoraはスイス生まれ・ウィーン拠点のオーストリア籍、Capital Braはシベリア生まれのウクライナ育ち。「ドイツ語ラップ」は、最初からドイツのパスポートの話ではなかった。

影響・派生で結ばれたジャンル

ドイツ語ラップを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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