ハーシュ・ノイズ・ウォール
Harsh Noiseの一形態で、変化の少ない静的なノイズ「壁」を長時間提示するサブジャンル。
どんな音か
ハーシュ・ノイズ・ウォールは変化しない。正確には「変化がないこと」が音楽的な選択として成立している。開始から終了まで、ほぼ同じ密度・同じ音圧・同じ音色の轟音が続く——ギター、電子機器、エフェクターが重ねられた「壁(wall)」だ。Vomirの「Proanomie」(2007)では、最初の一音からほぼ最後まで変化がなく、リズムも旋律も展開もない。ハーシュ・ノイズ(HNW)の「聴き方」は従来の音楽の文法を保留することで成立する——「次に何が来るか」「これはどこに向かうのか」という問いをやめたとき、この音は別の何かになる(あるいはならない)。
生まれた背景
ハーシュ・ノイズ・ウォールは2006〜07年頃にパリを拠点とするVomir(クリストフ・ソー)が提唱・実践したとされる。彼はノイズミュージックの実験的な流れのなかで「展開するノイズ」を拒絶し、静止した音の塊だけを提示することを表明した。HNWはそれ以前から類似した実験(Lou ReedのMetal Machine Musicなど)があったが、「HNW」という概念として明確に定義したのはVomirだと言われる。テープダビングとカセット文化が制作・流通のインフラになり、限定版カセット数百本という規模で成立するシーンが世界に広まった。
聴きどころ
「聴きどころ」という概念がほとんど解体されているジャンルだが、あえて言えば:最初の1〜2分を聴いた後、目を閉じて音の「内部」に意識を向けてみてほしい。轟音の中には微細な倍音の揺らぎがあり、同じに見えて完全に同じではない。また「これを音楽と呼ぶべきか」という問い自体が、HNWに接触することで初めて生じる体験だ。Vomirの「Aimer」(2012)は比較的短めの作品で、体験の入口として試しやすい。
発展
Bandcampの隆盛と共にHNWは独立シーンを形成、テープレーベル/カセット文化と結合した。
出来事
- 2007: Vomir『Proanomie』 / 2010: The Rita『The Anatomy of Brutal Female Wrestling』
派生・影響
Harsh Noise、Drone、Power Electronics。
音楽的特徴
楽器ペダル、フィードバック、ホワイトノイズ
リズム完全静的、長尺、変化最小
代表アーティスト
- Vomir
代表曲
- Proanomie — Vomir (2007)
- Aimer — Vomir (2012)
No Real End — Vomir (2009)
Sans Issue — Vomir (2010)
Refusal — Vomir (2014)
日本との関係
初めて聴くなら
Vomirの「Aimer」(2012)または「Refusal」(2014)を、ヘッドホンかスピーカーのどちらかで音量を決めてから、「最後まで何も起きないかもしれない」という構えで再生するといい。途中で止めたくなったら止めていい——その時どこで止めたくなったかが、この音楽とどう向き合ったかの記録になる。
豆知識
Vomirはステージパフォーマンスで後ろを向いて演奏する(または演奏せず機材だけを置く)ことで知られる。「音楽の発信者と受信者」という関係性を拒絶する身振りで、HNWの概念と一貫している。また彼は膨大な数のリリースを持ち、タイトルはすべてフランス語で、既存の哲学・政治用語や固有名詞を組み合わせた表題をつけている。
