フランス
France
西欧
日本人が思い描く「フランスといえばシャンソン」というイメージは、いまのヒットチャートにはもう無い。シャンソンは観光土産のイメージと国民的な誇りの象徴として生き残るが、現役のヒット曲としてはほとんど顔を出さない。代わりにこの国は、ヨーロッパで最も大きな自国ラップ市場を築き上げた。フランスの音楽業界団体SNEPが集計する公式アルバムチャートは、ほぼ毎週フランス語ラップの独壇場だ。チャート常連のニーニョや、マルセイユ発のJulといったラッパーが上位を独占し、ベルギーを拠点にフランス語ラップの中心人物となったDamsoも欠かせない。シングルでも構図は変わらない。フランス語ラップとR&Bが、トップを埋め尽くす。
自国アーティストの人気曲
- Djadja — Aya Nakamura · 2018
マリ系仏国民歌手Aya Nakamuraの世界的ヒット。Bambara語俗語「djadja」(嘘つき)をタイトルに、元彼への辛口メッセージ。
- Dommage / 残念だ — BIGFLO & OLI · 2017
トゥールーズ出身兄弟デュオの代表曲。4人の人物が「もう少しで…」と後悔する人生の岐路を描く、仏語ストーリーテリング・ラップの傑作。
海外アーティストの人気曲
世代・地域・経済による違い
Z世代の男性はほぼフランス語ラップ一色だ。女性はアヤ・ナカムラ(フランス語で歌う国民的スター)に代表される女性ラッパーやR&Bシンガーへ向かう。アルジェリアやモロッコ、サハラ以南アフリカ系の移民コミュニティが育てた音楽が、そのままメインストリームのラップに流れ込む。北アフリカ(マグレブ)の音楽を思わせる旋律、アフロビーツのうねり、フランス語ならではの言葉のリズム(符割り)——それらが入り混じり、フランスのラップはほかの国にはない独特の響きを持つ。マルセイユやパリ郊外(バンリュー)、フランス北部の言い回しやスラングも、そのまま歌詞に刻まれる。一方、中高年の世代は、ベルギー出身ながらシャンソンの名匠として愛されるブレルや、フランスのブラッサンスを今も別格の存在として聴いている。若者がバンリューのスラングをラップに刻む一方、親世代はいまもブレルの一語一語に耳を傾ける——同じ国で二つのフランス語が鳴っている。
