サチュレーション楽派
2000年代以降フランスで興った、極限的に飽和した音響密度を志向する潮流。
どんな音か
サチュレーション楽派は、2000年代以降のフランス現代音楽で目立った、音響密度を極端に高める潮流。音量が大きいだけではなく、倍音、ノイズ、器楽の特殊奏法、電子音響が重なり、耳の処理能力を超えるような飽和状態を作る。ラファエル・センドらの作品では、音が塊になって押し寄せ、細部が過熱した物質のように聴こえる。
生まれた背景
聴きどころ
メロディや和声を探すより、音がどれだけ密集し、どこで崩れ、どこで息をするかを聴く。大きな音の中にも、弦の摩擦、管の破裂音、打楽器の残響、電子音のざらつきがある。飽和は単なる騒音ではなく、緻密に配置された圧力である。ヘッドホンでは疲れやすいので、短い区切りで聴くのもよい。
発展
ラファエル・センド「Action Painting」(2005)、ベドロシアン「La limite des oubliés」、ヤン・ロビン「Quicksilver」など、IRCAMやアンサンブル2e2mを中心に上演機会を得てきた。日本でも酒井健治らが類似の方向を模索している。
出来事
- 2005: ラファエル・センド「Action Painting」
- 2009: 「サチュレーション」概念の理論化(センド論考)
- 2010年代: ロビン、ベドロシアン作品の国際的演奏
派生・影響
21世紀現代音楽の音響志向、電子音響音楽、ノイズ・ミュージックとの境界横断的書法に影響を残しつつある。
音楽的特徴
楽器管弦楽、室内楽、電子音響
リズム音響飽和、ノイズ的密度、楽器限界
代表アーティスト
- ラファエル・センド
代表曲
- Décombres — ラファエル・センド (2008)
- Action Painting — ラファエル・センド (2005)
- Rokh I — ラファエル・センド (2012)
Furia (Erebos) — ラファエル・センド (2009)
Refletti — ラファエル・センド (2010)
日本との関係
日本では現代音楽祭や専門的な演奏会で紹介される領域で、一般的な知名度は高くない。ただし日本のノイズ、即興、電子音楽に親しむリスナーには接点がある。音響の過密さを美として扱う点では、Merzbow以後のノイズ観とも並べて聴けるが、サチュレーション楽派は記譜されたアンサンブル音楽としての制御が大きい。
初めて聴くなら
入口は「Action Painting — ラファエル・センド (2005)」。音の飽和を絵画的な身振りとして感じやすい。さらに「Décombres — ラファエル・センド (2008)」で崩れた瓦礫のような響きを、「Rokh I — ラファエル・センド (2012)」で大規模な圧力の構成を聴くとよい。
豆知識
サチュレーション楽派の飽和は、録音の音割れを放置することではない。演奏者が精密な指示を実行し、作曲家が音の密度を設計することで生まれる。混沌に聴こえる部分ほど、実は高い演奏技術と集中力を要求することが多い。
