ドラムンベース
1990年代初頭のイギリスで成立した、高速ブレイクビーツと重低音を特徴とする電子音楽。
どんな音か
たった数秒のドラム・ソロが、ジャンル全体の心臓になった——通称「エイメン・ブレイク」。1969年録音、ウィンストンズの楽曲『Amen, Brother』に含まれるドラム部分だ。ドラムンベースは1分間に160〜180拍(BPM)という速さで走る電子音楽で、その中心にあるのが「ブレイクビーツ」、つまり古いファンクやジャズのドラム演奏だけを抜き出し、高速化して組み直す手法である。なかでもこの約6〜7秒の断片は、ジャンルの原型として無数の曲に刻み直されてきた。低音はサブベースとシンセ・ベースが担い、DJが次の曲へつなぎやすいよう各曲は5〜7分と長めに作られている。ヴォーカルはほぼ脇役で、ソウルやジャズ由来の歌のフレーズが、ときおり差し色のように置かれるだけだ。
生まれた背景
ドラムンベースは、同じく英国発の高速ダンス音楽ジャングルから派生し、1994〜95年にかけて独立したジャンルとして姿を整えた。ジャングルが多用していたレゲエやダンスホール風のボーカルを控えめにし、より滑らかな音作りとジャズ的な質感へ寄せていったのである。Goldie『Timeless』(1995)とRoni Size & Reprazentがマーキュリー賞を受賞した『New Forms』(1997)が、この時代を代表する二枚として知られる。2000年代以降は、攻撃的な「ニューロファンク」を切り開いたEd Rush & Optical、それをさらに推し進めたNoisia、ジャズ寄りの「リキッド」を広めたHigh Contrastらが活躍し、現在はコミカルな「ジャンプアップ」など多くのサブジャンルに枝分かれしている。
聴きどころ
まずはベースラインの低さと深さを、身体で味わうように聴いてみるといい。次に、キック(バスドラム)やスネア(小太鼓)の鳴る順番に注目したい。同じ1曲の中でも、その並びは曲の途中で何度も入れ替わっていく——この絶え間ないリズムの編集こそ、この音楽の体温だ。多くの曲には、ドラムとベースが一気に揃って炸裂する「ドロップ」の前に、32〜48小節ほどの長い助走がある。そこから本編がなだれ込む瞬間をつかめれば、曲の組み立てがすっと見通せるようになる。ライブでは、まるで全力で走っているかのような速いビートを、観客が身体ごと受け止める感覚を味わえる。
音楽的特徴
リズム160-180 BPM、刻まれたブレイクビーツ、重低音
リズムを聴く
このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。
代表アーティスト
- Alex Reece
- Goldie
- Roni Size
- Ed Rush & Optical
- Pendulum
- Chase & Status
- Noisia
代表曲
- Inner City Life — Goldie (1994)
- Pulp Fiction — Alex Reece (1995)
- Brown Paper Bag — Roni Size (1997)
- Propane Nightmares — Pendulum (2008)
- Bad Boys — Shy FX (2002)
日本との関係
1990年代後半に新宿LIQUIDROOM、芝浦GOLDなどでD&Bパーティが定着。日本人プロデューサーでは、Makoto(リキッド系)、PaulSGなどがイギリスレーベルから定期的にリリース。Boom Boom Satellitesは初期にD&Bを取り入れていた。
初めて聴くなら
豆知識
「Amen Break」(約6〜7秒のドラム・ソロ)は、正確な集計こそ無いものの、史上もっとも多くサンプリングされたドラムブレイクの一つとされ、推定で数万曲に使われたと言われる。それでいて、あのドラムを実際に叩いた原曲のドラマー、グレゴリー・コールマン(ウィンストンズ)は2006年にホームレス同然の困窮のうちに死去し、サンプリングの印税を生涯1セントも受け取らなかった。2015年にはイギリスのDJ2名がクラウドファンディングを立ち上げ、最終的に約2万4千ポンド(当時およそ450万円)が集まった。だがその小切手を手にしたのは、コールマンではなかった。バンドのリーダーで著作権者でもある、存命のリチャード・スペンサーである。
