シカゴ・ドリル
2012年にシカゴ南部でChief Keef、Lil Durk、King Louらが確立した、暗いトラップ・ビートと冷たいラップが特徴のヒップホップ。
どんな音か
実際のテンポは約140 BPMと速い。だがドラムのアクセントが半分の間隔(これをハーフタイムと呼ぶ)で置かれるため、体感では約70 BPM程度の、ゆったりと重く沈むテンポに聞こえる。土台は808(ドリルやトラップで定番のリズムマシンの低音)が地を這うように鳴らすキックと、細かく転がるハイハット、そしてホラー映画を思わせる暗い短調のシンセ・パッドだ。ヴォーカルは囁きとラップの中間のような、暗く抑えた語り口だ。歌詞は英語(シカゴ南部の俗語が多い)で、テーマはストリートの暴力やギャング同士の抗争、銃やナイフ、警察への不信、そして貧困から抜け出そうとする思い。音作りでは、低音をあえて冷たく前面に出し、声は飾り気なく真ん中に据えて、エコー(残響)をほとんどかけない。声がすぐ目の前にいるような生々しさが、独特の緊張感を生む。
生まれた背景
2010〜12年のシカゴ南部、特にイングルウッド地区の若者たちのあいだから自然発生的に生まれた。中心となったのは、当時16歳のChief Keefをはじめ、Lil Durk、Lil Reese、King Louie、Fredo Santanaら10代の若者たち。そして2012年に18歳で射殺されたLil Jojoも、その仲間の一人だった。彼らの音の土台を築いたのが、プロデューサーのYoung Chopだ。2012年3月に出たChief Keef『I Don't Like』を、同年5月にKanye Westがリミックスしたことで、ドリルはアンダーグラウンドから一気に表舞台へ躍り出た。その後、2012年以降のロンドン(UKドリル)、2019年前後のブルックリン(ニューヨーク)、パリなど各地へ広がっていく。発祥の地シカゴでは、Lil Durkのような全国区のスターを生みながら、今もシーンが続いている。
聴きどころ
最大の聴きどころはヴォーカルの乗り方だ。暴力的な内容を淡々と語る声が、他のラップに比べてビートよりも大きく遅れて入ってくる。これが、速いテンポなのに音楽だけが後ろへ後ろへと粘る、独特の質感を生む。背後では暗い短調のシンセ・パッドが一つの和音を長く伸ばし、時にホラー映画のように半音ずつ下がっていく。その下では808キックの伸びる低音と細かく刻むハイハットが、全体の圧迫感を支える。
発展
後に英国でUKドリル(2014-)、ニューヨークでブルックリン・ドリル(2018-)、フランス、オーストラリアと国際的に変異した。
音楽的特徴
楽器ドラムマシン、シンセ、808ベース
リズム60-70BPMハーフタイム感覚、ハイハット・ロール、トリプレット
リズムを聴く
このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。
代表アーティスト
- King Louie
- Chief Keef
- Lil Durk
代表曲
- I Don't Like — Chief Keef (2012)
- Love Sosa — Chief Keef (2012)
- L's Anthem — Lil Durk (2014)
- Val Venis — King Louie (2012)
3Headed Goat — Lil Durk (2020)
日本との関係
初めて聴くなら
まず1曲だけなら、シカゴ・ドリルが全国区に躍り出たChief Keef『Love Sosa』(2012)。一発でこの音楽の世界観がつかめる。余裕があれば、シーンの起点となった同じくChief Keefの『I Don't Like』(feat. Lil Reese, 2012)へ。アルバムで通して聴くなら、彼のデビュー作『Finally Rich』(2012)が入口になる。
豆知識
代表曲『I Don't Like』のビートは、当時18歳のプロデューサーYoung Chopが自宅の寝室でFL Studioを使い、本人いわく20〜30分ほどで手早く作り上げたものだという。一方でChief Keefは、この曲が大ヒットした時まだ16歳。前年に警官へ銃を向けた件(銃の不法使用)で、保護観察下の自宅軟禁中だった。その後、彼の周辺人物も相次いで命を落とす。2012年に射殺されたLil Jojo、そして2018年に死去したFredo Santana(検視では心血管疾患と特発性てんかんが死因とされた)。相次ぐ死は、この音楽が現実の暴力と地続きであったことを物語っている。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- ヒップホップ・R&Bプラッグ
- ラテン・カリブムンバトン
- 伝統・民族インディー・フォーク
- ヒップホップ・R&Bブルックリン・ドリル
- ヒップホップ・R&Bプラッグンビー
- ヒップホップ・R&Bレイジ・ラップ
- エレクトロニックシジルコア
- エレクトロニックダリアコア
