ハッピー・ハードコア
1990年代中盤UKで成立した、明るい旋律と速いビートを組み合わせたハードコア・テクノ。
どんな音か
ハッピー・ハードコアのBPMは160〜180台。ドラムはハードコアの四つ打ちを踏まえつつ、スネアがオフビートで鳴るジャングル系のリズム構造(「ブレイクビーツ」的なロール)を持つ曲も多い。最大の特徴はボーカルラインのピッチを上げる処理で、女性の歌声がさらにチューンアップされて「ガスを吸ったような」音域になる。メロディはポップスと同じ構造——Aメロ・サビ・ブリッジ——が存在し、サビで開放的に歌い上げる。DJ Paul Elstakの「Rainbow in the Sky」(1995)はピッチシフトされたボーカルと明るいシンセコードの組み合わせがジャンルの定型を示している。会場ではラヴ(Rave)の一体感とダンスフロアの多幸感が重なる音楽として機能した。
生まれた背景
1990年代前半のイギリスでは、Hardcore Raveがハウスとテクノを加速させてジャングルへと分岐しつつあった。その流れの中で、メロディを保持してテンポをさらに上げた「ハッピー・ハードコア」が1994〜95年に成立した。Scott BrownのClassic recordsやSY Recordsがシングルをリリースし、スコットランドやイングランド北部の若いラヴァーたちに支持された。オランダのDJ Paul Elstakがこのスタイルを大陸に持ち込み、ドイツやオランダの野外フェスでも広まった。2000年代以降にシーンは縮小したが、スコットランドではEvolution Festivalなどのイベントが継続した。
聴きどころ
ピッチシフトされたボーカルに最初は驚くかもしれないが、2〜3曲聴くと「このジャンルの声」として耳が慣れる。Scott Brownの「Toytown」(1996)ではブレイクビーツ系のドラムロールとハードコアの四つ打ちが組み合わさっていて、リズムの複雑さに注目するといい。サビで高揚するメロディがどのタイミングで来るかを追うと、楽曲構成がポップスと近い設計であることが分かる。
発展
1995-99年UKで爆発的人気となり、後にUK Hardcore、Freeform Hardcoreへ枝分かれした。
出来事
- 1995: Bonkers Vol. 1 / 1996: DJ Hixxy『Toytown』 / 1998: Scott Brown活動本格化
派生・影響
UK Hardcore、Freeform、Speedcore。
音楽的特徴
楽器シンセ、ピアノ、TR-909、サンプラー
リズム160-180 BPM、明るい旋律、4つ打ち
代表アーティスト
- DJ Paul Elstak
- Paul Elstak
- Scott Brown
代表曲
- Don't Leave Me Alone — DJ Paul Elstak (1995)
- Luv U More — DJ Paul Elstak (1995)
- Rainbow in the Sky — DJ Paul Elstak (1995)
Total Recall — Scott Brown (1996)
Fairground — Scott Brown (1995)
Toytown — Scott Brown (1996)
日本との関係
ハッピー・ハードコアは日本でも1990年代後半から輸入盤で流通し、クラブや「テクノパーティ」でかかることがあった。日本のアニソンやゲームミュージックのBPMが速くなっていく2000年代の流れと、一部のリスナーの間で親和性が指摘される——ピッチシフトした女性ボーカルと明るいシンセはアニソンの一部と感触が近い。ただし「ハッピー・ハードコア」という名前で語られることはほとんどなく、「速いテクノ」として消費されてきた側面が強い。
初めて聴くなら
DJ Paul Elstakの「Rainbow in the Sky」(1995)か「Luv U More」(1995)からスタートするといい。ノリよく踊りたい場面や、90年代UKレイヴの雰囲気を体感したい夜に向いている。Scott Brownの「Fairground」(1995)はメロディの作りが特にポップで、ジャンルへの入門としてハードルが低い。
豆知識
ハッピー・ハードコアは当初、シリアスなハードコアファンから「子供向け」「安易」と批判されることが多かった。この蔑視的なニュアンスを含む「ハッピー・ハードコア」という呼称はファン外から付けられたもので、作り手の多くは「UK Hardcore」と自称していた。後年このジャンルから派生したスタイルが「UK Hardcore」「Makina(スペイン向け変種)」として継承されている。
