新しい単純性
1970年代後半ドイツで興った、新複雑性に対峙して直截的・調性的書法を志向する潮流。
どんな音か
生まれた背景
西ドイツの戦後前衛が制度化される中で、ヴォルフガング・リームら若い作曲家が、表現主義、ロマン派、劇場性を再び引き寄せた。1970年代の政治的、文化的な空気の中で、厳密なシリアリズムだけでは扱いきれない主観や声の強さが求められた。リームの「Jakob Lenz」は、その方向を示す代表的な舞台作品である。
聴きどころ
音列や理論を先に追うより、音がどんな身振りとして出てくるかを聴く。急な叫び、分厚い和音、静かな独白、過去の音楽を思わせる影が交互に現れる。単純性は、旋律が分かりやすいという意味だけではなく、表現が遠回りせずに届くという意味でもある。劇作品なら、声と器楽が互いを押し広げる瞬間に注目したい。
発展
リーム「Jakob Lenz」(1979、室内オペラ)、「Dis-Kontur」(1974)、「Schrift-Um-Schrift」、ボーゼ「Symbolum」など、リズム・ハーモニーの直截的・劇的回復を示した。日本では佐藤聰明など類似志向の作曲家もいる。
出来事
- 1977: ドナウエッシンゲン音楽祭、リーム作品で話題
- 1978: 「Neue Einfachheit」用語の流通
- 1979: リーム「Jakob Lenz」
- 1989: リーム「Tutuguri」全曲完成
派生・影響
新ロマン主義(米国)、現代の調性的書法、現代映画音楽の感情的書法に影響を残している。
音楽的特徴
楽器管弦楽、室内楽、声楽
リズム調性/半調性、表現主義的叙情、直截的形式
代表アーティスト
- ヴォルフガング・リーム
代表曲
- Dis-Kontur — ヴォルフガング・リーム (1974)
- Jakob Lenz — ヴォルフガング・リーム (1979)
- Klangbeschreibung I — ヴォルフガング・リーム (1982)
- Tutuguri — ヴォルフガング・リーム (1989)
- Jagden und Formen — ヴォルフガング・リーム (2001)
日本との関係
初めて聴くなら
入口は「Jakob Lenz — ヴォルフガング・リーム (1979)」。劇的な声の扱いと切迫した音響が分かる。器楽の密度を聴くなら「Dis-Kontur — ヴォルフガング・リーム (1974)」、大きな音響のうねりなら「Tutuguri — ヴォルフガング・リーム (1989)」がよい。
豆知識
新しい単純性という名称は便利だが、リーム本人を含む作曲家たちの全貌を一語で説明できるわけではない。むしろ、前衛の後にもう一度、情念、歴史、声、劇を作曲へ戻すための合図として見ると理解しやすい。単純さはゴールではなく、表現を隠さないための態度だった。
