トランス
1990年代初頭のドイツで成立した、メロディアスで高揚感あるエレクトロニックダンス。
どんな音か
テンポ(BPM=1分間の拍数)は130〜145。テクノと同じ四つ打ち——1拍ごとにキックが均等に鳴る——を土台にしつつ、その上に乗るシンセのメロディとアルペジオに個性がある。アルペジオとは和音を一音ずつ階段状に鳴らす奏法で、これが聴き手の感情を高ぶらせ、荘厳で神秘的な響きを生む。曲構造は「イントロ・ブレイクダウン(キックが抜ける)・メロディの提示・ドロップ(キックが戻る)・クライマックス」と、明確にドラマを描く。曲尺は5〜10分と長い。キックが鳴るたびに他の音が一瞬しぼんで脈打つ「サイドチェイン」という加工が、トランスでは効果としてはっきり聴き取れることも多い。歌付きの「ヴォーカル・トランス」では、女性ボーカルが高い音域で長く伸ばすフレーズを歌う。
生まれた背景
1990年代前半、テクノからより旋律的・上昇的な方向へ分岐したのがトランスの始まりだ。諸説あるが、最も代表的なのはドイツ・フランクフルトのSven Vath(スヴェン・フェト)が率いたEye QやHarthouseといったレーベル群。そこにベルリンのPaul van Dyk(ポール・ヴァン・ダイク)が、メロディを主役に押し出してトランスをクラブの外へ広げた。同じ頃、ベルギーやドイツ、オランダでは硬質な「ハードコア/ハード・トランス」が、インド・ゴアでは「ゴア・トランス」が、それぞれ並行して発展する。1990年代後半になると、オランダのTiesto(ティエスト)やArmin van Buuren(アーミン・ヴァン・ブーレン)、Ferry Corstenらが、より旋律を前面に出した「アップリフティング・トランス」を確立。2000年前後、トランスはアンダーグラウンドを抜けてメインステージの音になり、イビサのスーパークラブやオランダの専門フェス(トランス Energy)を中心に巨大化していった。なかでもTiestoは、その後トランスをスタジアムを埋めるほどの音楽へと育てていく。しかし2008〜2010年頃には、プログレッシブ・ハウスやエレクトロに主役の座を譲る。とはいえ完全には消えず、2010年代後半から静かに息を吹き返している。
聴きどころ
聴きどころは、まずブレイクダウンとドロップが生む「溜めと解放」のドラマだ。シンセのメロディが何小節もかけて少しずつ上昇していく様子と、キックに合わせて他の音が脈打つ呼吸感を味わいたい。女性ボーカルが入る曲なら、その伸びやかな声と、背後のシンセとの掛け合いにも耳を澄ませてほしい。クラブで踊るより、フェスで両手を上げて浴びる音楽だ。
音楽的特徴
リズム4つ打ち、130-150 BPM、長いブレイクとビルド
リズムを聴く
このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。
代表アーティスト
- Robert Miles
- Paul van Dyk
- Tiësto
- Armin van Buuren
- Darude
代表曲
- Children — Robert Miles (1995)
- For an Angel — Paul van Dyk (1998)
- Sandstorm — Darude (1999)
- Adagio for Strings — Tiësto (2004)
- In and Out of Love — Armin van Buuren (2008)
日本との関係
初めて聴くなら
まずは王道の高揚から。ヴォーカル・トランスなら、Armin van Buuren feat. Sharon den Adel『In and Out of Love』(2008) や Above & Beyond『Sun & Moon』(2011、Richard Bedford参加)。オーケストラル/メロディックな例なら、Tiesto『Adagio for Strings』(2004年発表、シングル化は2005年)。初期ドイツの一曲としてはJam & Spoon『Stella』(1992)。そしてtriviaで触れたサイケデリック・トランスの代表例として、Astrix『Type 2』(2004)。
