ユーロダンス
1990年代の欧州で成立した、4つ打ち・歌・ラップを組み合わせた商業ダンスポップ。
どんな音か
ユーロダンスは、1990年代前半から中盤にかけてヨーロッパ大陸で大量に作られたダンスポップを指す。とくにドイツ、ベルギー、オランダ、北欧、イタリアが本場だった。土台は四つ打ち(1小節に4回、拍の頭で正確にキックが鳴るリズム)で、テンポは1分間に125〜140拍(BPM)。その四つ打ちに、1970年代ディスコ由来のシンセベースと、明るい長調のメロディを奏でるシンセサイザーが重なる。さらに「サビは女性ボーカル、その間をつなぐ部分(ヴァース)は男性のラップ」という役割分担が乗るのが定番だ。Snap!『The Power』(1990) が原型を提示し、この男女の役割分担を備えた定型が固まったのは1992〜93年で、Snap!『Rhythm Is a Dancer』やCulture Beat『Mr. Vain』がその代表だ。Haddaway『What Is Love』(1993)、La Bouche『Be My Lover』(1995)、Aqua『Barbie Girl』(1997) と続いて世界市場を席巻した。明るく、安っぽさを恐れず、サビは一度で耳に残る。それがユーロダンスだ。
生まれた背景
起源は1980年代末のフランクフルトとベルギー北部(フランデレン地方)にある。ベルギーで流行したスローテンポの電子ダンス「ニュービート」やドイツのテクノが、商業ポップと混ざり合う形でユーロダンスが生まれた。決定的な突破口はSnap!『The Power』で、米国出身のラッパーと女性歌手をドイツのプロデューサーが組み合わせるという作り方が、このジャンルの定番の型そのものになった。背景にあるのは冷戦終結後のヨーロッパで、ベルリンの壁崩壊(1989)の高揚感、東欧の市場開放、そしてMTV Europeの登場による汎欧州ヒットチャートの誕生だ。各国のディスコがその場で踊れるストレートな四つ打ちを求め、レコード会社が次々と量産した。全盛はわずか7年ほどと短かったが、毎年のように世界的ヒットを生み出したその密度は、後のEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)やK-popにまで影響を残している。
聴きどころ
代表アーティスト
- Culture Beat
- Snap!
- Ace of Base
- Haddaway
- La Bouche
代表曲
- All That She Wants — Ace of Base (1992)
- Rhythm Is a Dancer — Snap! (1992)
- Mr. Vain — Culture Beat (1993)
- What Is Love — Haddaway (1993)
- Be My Lover — La Bouche (1995)
日本との関係
1990年代の日本ではユーロダンス/ユーロビートが「avex」レーベルとパラパラ文化を通じて爆発的に広まった。マハラジャやヴェルファーレでパラパラのフォーメーションダンスが踊られ、Dancemaniaシリーズに収録されたユーロビート曲が一世を風靡した。厳密にはユーロビート(イタリアSCP系の超高速派生)はユーロダンスとは別ブランチだが、日本のリスナーはほぼ同じ文化圏として受容した。『頭文字D』のサウンドトラックも、ユーロビート経由でユーロダンスの遺伝子を日本のアニメ・ゲーム文化に運んだ大きな入口だ。Aqua『Barbie Girl』『Doctor Jones』、ハッピー・ハードコア系まで含めて、当時のカラオケと深夜のディスコの記憶にユーロダンスは深く刻まれている。
初めて聴くなら
入口の一曲はHaddaway『What Is Love』(1993)。冒頭のベース一発で誰もが「ああ、あの曲か」と分かる。アメリカ合衆国のコメディ番組『サタデー・ナイト・ライブ』のスキット経由で、世代を超えて何度も再ヒットしてきた一曲だ。ただしこの曲はHaddaway本人のソロ歌唱で、ジャンルの定番である「男性ラップ+女性サビ」の役割分担は持たない。その典型を聴くならSnap!『Rhythm Is a Dancer』やCulture Beat『Mr. Vain』へ。あとはLa Bouche『Be My Lover』、ポップに振り切るならAqua『Barbie Girl』、イタリア発の華やかな一曲ならCorona『The Rhythm of the Night』。ドライブやパーティ、深夜のカラオケで流すと体が勝手に動くタイプの音楽で、しんみり聴くジャンルではない。今かけても、1990年代の眩しさがそのまま戻ってくる。
豆知識
ユーロダンスの歌やラップは、ジャケットやステージに立つ人物と、実際に声を入れた人物が別人という「顔と声の不一致」をしばしば抱えていた。象徴的なのがSnap!『The Power』(1990) だ。当初はラッパーChill Rob Gの声を無断使用していたが、後にこれをTurbo B(本名Durron Butler)のラップへ差し替えた。さらにミュージックビデオでは、実際に歌ったPenny Fordとは別人(米空軍兵のJackie Harris)が口パクで歌う姿を見せていた。同じ口パク問題で最も有名なのは、ユーロダンス直前の別系統のダンスポップにいたMilli Vanilliで、口パク発覚によるグラミー賞(最優秀新人賞)剥奪は1990年の出来事だった。もうひとつ、Aqua『Barbie Girl』(1997) はマテル社(バービー人形の製造元)から訴えられたが、アメリカ合衆国の裁判所はパロディの範囲内として訴えを退けた。後の2023年の映画『バービー』のサウンドトラックでは、Nicki MinajとIce Spiceが『Barbie Girl』をサンプリングした『Barbie World』が起用され、かつて提訴された曲のフレーズがマテル公認の文脈で蘇った。
