カントリー・ゴスペル
20世紀アメリカ南部の白人福音音楽で、カントリー音楽の楽器編成と語法で歌われる讃美歌伝統。
どんな音か
カントリー・ゴスペルはアコースティック・ギターとバンジョー、時にフィドルやオートハープが中心になる。声は素朴で鼻にかかっていることが多く、アフリカ系のゴスペルが持つコーラスの厚みよりも、白人農村の家族音楽的な「そのまま感」がある。ハーモニーはシンプルな3度や5度で重なり、家の居間で歌えるような親密さがある。歌詞は天国への希望、労働と信仰の結びつき、血縁による絆といったテーマが多く、アメリカ合衆国南部の口語英語で書かれる。ザ・カーター・ファミリーの録音は1920年代後半のもので、マイクに近い息の音やギターの弦を押さえる指の音まで残っており、録音室の質感が素のまま伝わってくる。
生まれた背景
20世紀初頭のアメリカ合衆国南部農村、特にヴァージニア・テネシー・ノースカロライナのアパラチア山中では、日曜礼拝と家庭の歌が地域コミュニティの核だった。白人プロテスタント教会の讃美歌集とイギリスからの民謡が混ざり合い、ハーモニー重視の「シェイプ・ノート唱法」が広まっていた。1927年、ブリストル(テネシー州)でRCAビクターのラルフ・ピアが行った録音セッションで、ザ・カーター・ファミリーが初めてレコーディングし、商業的なカントリー・ゴスペルの歴史が始まったとされる。1950〜60年代にはジョニー・キャッシュやエルヴィス・プレスリーがゴスペルをロックとカントリーに接続し、ジャンルの境界を動かした。
聴きどころ
ザ・カーター・ファミリーの『Will the Circle Be Unbroken?』(1935年)ではサラ・カーターのヴォーカルとA.P.カーターのベース・ヴォーカルが交差する部分を注意して聴く。オートハープ(弦を指で押さえながら弾くアコースティック楽器)の音が低音域で支え、『Wildwood Flower』(1928年)ではメイベル・カーターのギターのリード・ラインが際立っている。歌い方は飾りがなく、言葉の子音が立っているため歌詞が聴き取りやすい。
発展
20世紀前半のカーター・ファミリー、ベイリー・ブラザーズらが録音文化に持ち込み、ナッシュヴィルのレコード産業を通じて全国化した。1950年代以降サザン・ゴスペル四重唱(Stamps Quartet等)と並存しつつ、ジョニー・キャッシュらによる主流カントリー・スターのゴスペル・アルバムで一般化した。
出来事
- 1927: ブリストル・セッション、カーター・ファミリーが讃美歌を録音
- 1956: ジョニー・キャッシュ『I Was There When It Happened』ゴスペル録音
- 1971: ドリー・パートン『Golden Streets of Glory』
派生・影響
サザン・ゴスペル、ブルーグラス・ゴスペル、現代CCMのカントリー寄り表現に直結する伝統。
音楽的特徴
楽器ヴォーカル、アクースティックギター、フィドル、ピアノ、スティールギター
リズムカントリー2/4または4/4、シンプル和声、コーラス反復
代表アーティスト
- The Carter Family
代表曲
- Can the Circle Be Unbroken — The Carter Family (1935)
- Keep on the Sunny Side — The Carter Family (1928)
- Wildwood Flower — The Carter Family (1928)
- Will the Circle Be Unbroken — The Carter Family (1935)
- Will the Circle Be Unbroken? — The Carter Family (1935)
日本との関係
カントリー・ゴスペルとして日本に入ってくることはほとんどなく、ザ・カーター・ファミリーもアメリカ合衆国ン・ルーツ音楽の専門家の間でしか語られない。ただし彼らの影響を受けたボブ・ディランやジョニー・キャッシュは日本でも人気があり、その「源流」として関心を持つ音楽ファンは一定数いる。
初めて聴くなら
ザ・カーター・ファミリーの『Keep on the Sunny Side』(1928年)から入るのがよい。明るいテンポで歌詞も聴き取りやすく、カントリー・ゴスペルの基本的な音像がわかる。続けて『Will the Circle Be Unbroken?』(1935年)を聴くと、同じグループが別のトーン(哀愁・死の受容)でどう歌うかが対比できる。
豆知識
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- ジャズスウィング
- 宗教・霊歌ブラック・ゴスペル
- 古典映画音楽(オーケストラ)
- ポップハパハオレ
- ジャズジャズ
- ジャズビバップ
- 伝統・民族フォーク
- 宗教・霊歌ペンテコステ礼拝音楽
