ゴスペル
アフリカ系米国人のキリスト教礼拝音楽として20世紀初頭に確立された宗教音楽。
どんな音か
静かな語りが一瞬で爆発的な叫びに変わる——その振れ幅こそゴスペルの核心だ。アフリカ系アメリカ合衆国人のキリスト教会で歌われる宗教音楽で、中心となるのは、教会オルガン、ピアノ、ベース、ドラム、タンバリンと、10〜100名規模の合唱団(クワイア)である。ボーカルの表現は幅広い。声をしゃくり上げて叫んだり(シャウト)、一つの音を叫ぶように伸ばし続けたり(ウーピング)、一節を声を震わせながら細かく装飾したり——リード歌手と合唱が呼び交わすコール&レスポンスもその柱だ。テンポの振れ幅も大きく、歩く速さほどの祈るような曲から、駆け足のように高揚する曲まである。歌詞の大半は、イエスや神への賛美と感謝、そして個人の信仰の証(あかし)である。録音はあえて教会の空気ごと捉え、合唱が残響の層に溶けていく——その響きがゴスペルの署名になっている。
生まれた背景
20世紀初頭、シカゴのトーマス・A・ドーシーが、ブルースやジャズの和声と節回しを教会音楽に持ち込み、「ゴスペル・ソング」というジャンルを作った(1932年の『Take My Hand, Precious Lord』が起点。妻と生まれたばかりの子を相次いで失った悲しみのなかで書かれた曲だ)。1940〜50年代にはマヘリア・ジャクソンが戦後ゴスペルの声を確立し、世界へ広めた。同じ頃、シスター・ロゼッタ・サープがエレキギター・ゴスペルを象徴する存在となり、ロックンロールを先取りした。1963年のワシントン大行進ではマヘリア・ジャクソンが歌い、ゴスペルは1960年代以降の公民権運動でも歌われ続けた。1970年代にはアンドレ・クラウチがコンテンポラリー・ゴスペルの型を作り、1990年代にはカーク・フランクリンがゴスペルにヒップホップやR&Bの感覚を持ち込み、「教会の音楽は古くさい」という当時の若者の見方を覆した。以後もソウルやヒップホップと声を交わし続け、世代ごとに書き換えられてきた。
聴きどころ
派手な歌唱技法の下で熱気を生んでいるのは、実は反復だ——そこに耳を澄ましてほしい。骨格はコール&レスポンス。リード歌手が投げかけた一行に、合唱が和音や決まり文句で応える。そこへ、同じ一節を8回も12回も繰り返しながら、山場で半音ずつ調を上げて熱を積み上げていく構造が重なる。ハモンドオルガンは和音をきざむのではなく、ペダルで音と音の間を滑らかに渡り、緊張した和音を一節まるごと引き伸ばして「息をする」ように鳴る。ピアノの即興、ハンドクラップ、足踏み、タンバリンが加わると、教会のあの熱気がそのまま音になって伝わってくる。
代表アーティスト
- Mahalia Jackson
- Sister Rosetta Tharpe
- Kirk Franklin
代表曲
- Strange Things Happening Every Day — Sister Rosetta Tharpe (1944)
- Take My Hand, Precious Lord — Mahalia Jackson (1956)
- How I Got Over — Mahalia Jackson (1961)
- Oh Happy Day (1969)
- Stomp — Kirk Franklin (1996)
日本との関係
初めて聴くなら
1曲だけ聴くなら、Mahalia Jackson『How I Got Over』(1951)。声量と感情の起伏の大きさに、ゴスペルの本質が表れている。次に、現代的な響きが欲しければKirk Franklin『Stomp』(1997)を。教会の合唱をそのままダンスフロアに引きずり出し、それでいてR&Bラジオの頂点に立った一曲だ。明るい一曲が欲しければ、Edwin Hawkins Singers『Oh Happy Day』(1969)。教会の地下室で生まれた歌が、世俗のラジオで世界的ヒットになった初期の代表例である。
豆知識
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- ブルース・カントリーケイジャン音楽
- 伝統・民族ハワイアン・ファルセット
- 宗教・霊歌ペンテコステ礼拝音楽
- ジャズジャズ
- ブルース・カントリーブルース
- ジャズラグタイム
- 宗教・霊歌サザン・ゴスペル
- ポップハパハオレ
