ロシアン・エレクトロニカ
Pompeya のシンセ・ポップ復権、Little Big のレイヴ・パンク、IC3PEAK の政治的ハイパーポップという、2010年代以降の露語電子音楽の三極。
どんな音か
ロシアン・エレクトロニカは、2010年代以降のロシア語圏で発達した電子音楽の総体で、大きく三つの極に分かれる。第一はPompeya(2007結成、モスクワ)に代表される英80sシンセ・ポップ復権系、第二はLittle Big(2013結成、サンクトペテルブルク)に代表されるレイヴ・パンク/コメディ・エレクトロ、第三はIC3PEAK(2013結成、モスクワ)に代表される政治的ハイパーポップ/ウィッチハウスだ。編成はプロデューサー+ボーカルの二人組が典型、BPMは100-160、シンセ主導のプロダクションに歪んだドラム・マシン、時にレイヴ・スタブとフューチャー・ベースのウォブル・ベース、ボーカルは英語混じりのロシア語で加工され、視覚要素(MV、ステージ演出)が音楽と同等以上に重視される。
生まれた背景
起点は2007年結成のPompeyaで、英語でDepeche Mode系80sシンセ・ポップを演奏、2011年『Foursome』が米SXSWで注目されて先行して欧米認知を得た(彼らはロシア語ではなく英語で歌う点でこの系譜の変則例)。並行して2013年結成のLittle Bigがイリヤ・プルシキン率いる過剰なコメディ・レイヴを打ち出し、2018年『Skibidi』のダンス・チャレンジがTikTokで全世界的にバイラル化した。同年2013年結成のIC3PEAKが3rdアルバム『Сказка(お伽噺)』(2018)からの『Смерти больше нет(死はもうない)』でロシア警察による捜査対象になり、政治的ウィッチハウスとして国際的認知を得た。
聴きどころ
発展
2020年、Little Bigはロシア代表としてEurovision 2020出場が決定していたが、COVID-19でコンテスト自体がキャンセルされた。2022年のウクライナ侵攻後、Little BigはメンバーがLA拠点に、IC3PEAKはヨーロッパ拠点に移った。同時期、ベラルーシ籍のMolchat Domaがロシア語ポスト・パンク/コールドウェイヴを代表する存在として、2020-21年TikTok経由で全世界的な『doomer』美学のサウンドトラックとなった(彼らは本作では別枠のrussian-doomerに配置)。近年ではKazuschaがゼムフィーラを継ぐドリーム・ポップ系電子音楽の代表として台頭している。
出来事
- 2007: Pompeya結成
- 2011: Pompeya SXSW注目
- 2013: Little Big結成
- 2018: Little Big『Skibidi』TikTokバイラル
- 2018: IC3PEAK『Смерти больше нет』検閲対象
- 2020: Little Big Eurovision出場決定→COVID中止
- 2022: メンバー各所亡命
派生・影響
英シンセ・ポップ/ニュー・ウェイヴ(Depeche Mode、New Order)、ドイツNDW、南アDie Antwoord、米ハイパーポップ(100 gecs、Charli XCX)からの影響。russian-doomer(Molchat Doma、Motorama)と兄弟関係にあり、post-punk との重複領域を持つ。
音楽的特徴
楽器シンセサイザー、ドラム・マシン、サンプラー、時に生ボーカル、時にヴォコーダー
リズム100-160BPMのハウス/レイヴ/トラップ、ハイパーポップの過剰なピッチ変化、Pompeyaは80sシンセ・ポップの整然とした4/4
代表アーティスト
- Pompeya
- IC3PEAK
- Little Big
代表曲・現在
90 — Pompeya (2011)
Cheenese — Pompeya (2014)
Skibidi — Little Big (2018)
Smerti Bolshe Net — IC3PEAK (2018)
Trrst — IC3PEAK (2018)
Uno — Little Big (2020)
日本との関係
初めて聴くなら
最初はLittle Big『Skibidi』(2018)、これで一気にジャンルの派手な側の入口が開ける。次にIC3PEAK『Смерти больше нет』(2018)、対極の暗く政治的な側を体験できる。Pompeya『90』(2011)は英語で歌う整然とした80sシンセ・ポップ。IC3PEAKは深夜、ヘッドホン、赤い部屋で聴くと最大限に効き、Little Bigは友達の家のパーティで爆音で鳴らすのが正しい。
豆知識
Little Bigは2020年、ユーロヴィジョン2020のロシア代表として『UNO』で出場が決定していたが、COVID-19で大会自体がキャンセルされ、彼らの世界的ブレイクの絶好の機会は失われた。翌2022年のウクライナ侵攻後、彼らはロサンゼルスに拠点を移し、公然と反戦のメッセージを発した。IC3PEAKのナスチャ・クレヴツォヴァはロシア警察による尋問を複数回受けた記録があり、2018年『Смерти больше нет』MVは「ロシア連邦保安庁(FSB)本部の前に肉を撒く」シーンで直接FSBが捜査対象とした稀有な例。彼らのYouTubeチャンネルはロシア国内では制限され、VPN経由でのみ全動画を視聴できる状態にある。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- ヒップホップ・R&Bロシア語ラップ
- ヒップホップ・R&B現代ロシアン・ラップ
- ロック・メタル現代ロシアン・ロック
- エレクトロニックドリフト・フォンク
- ポップポスト・ソヴィエト・ロシア・ポップ
- 伝統・民族ロシアン・シャンソン
