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ヒップホップ・R&B

現代ロシアン・ラップ

Modern Russian Rap

モスクワ / サンクトペテルブルク / ウファ / ロシア / 東ヨーロッパ · 2015年〜

別名: Русский рэп / Post-2015 Russian rap / Battle rap era / Оксимирон以降

2017年のOxxxymiron対Slava KPSSのバトルを触媒に、文学的バトルラップ側とメロディック・トラップ側の二極で拡張した2015年以降のロシア・ラップ。

どんな音か

現代ロシアン・ラップは、既存の umbrella `russian-rap`(1990年代Bad Balanceから続く総体)の中で、2015年以降にOxxxymironを触媒に一気に拡張した2015-2025年の波を指す。決定的な瞬間は2017年8月13日のOxxxymiron対Slava KPSSのVersus Battle(VBB)で、この一夜のバトル動画がYouTubeで4000万再生を超え、ロシア語ラップの文学性を世界に示した。以降のシーンは文学派側(Oxxxymiron、Husky、Noize MC)とメロディック・トラップ派側(Miyagi & Andy Panda、Face、Egor Kreed、MACAN、Morgenshtern)に二極化する。BPMは65-90、深い808キック、金属的な冷たいシンセ、オートチューン多用、ロシア語の子音クラスターがトラップのハイハットと衝突するテクスチャーが特徴だ。

生まれた背景

起点は2013年開始のYouTubeバトルラップ番組『Versus Battle』で、ここに2015年頃までにOxxxymiron、Slava KPSS、Husky、Noize MCが登場し、文学的パンチライン競争のシーンが形成された。Oxxxymiron(本名ミロン・フョードロフ、1985年サンクトペテルブルク生)はイスラエル系ユダヤ人で、幼少期に家族と共にイギリスに亡命、オックスフォード大学英文学卒業という稀有な学歴を持つ。決定打は2017年8月13日、モスクワで収録されたOxxxymiron対Slava KPSSのVersus Battle(通称『VBB』)で、ロシア語ラップ史上最大の観客数を集め、YouTube上で4000万再生を超えた。この日は多くの解説によれば「Slava KPSSがOxxxymironを撃破した」とされ、文学派の頂点が非文学派の側から落とされた歴史的瞬間だった。

聴きどころ

Oxxxymiron『Vsyo Slozhno』(2011)を聴くと、彼のフロウの密度がすぐわかる。ロシア語の格変化語尾を利用して、英語ラップの1.5倍近い音節を1小節に詰め込み、それでも脚韻を4-5語連続で揃える。Miyagi & Andy Panda『Kosandra』ではオセチア系メロディの哀愁が808キックの上に乗り、東欧的な「重さ」がトラップの軽さを打ち消す独特のバランスが生まれる。MACAN『Кинофильм』は歌いラップに近く、ロシア語のイントネーションを自然に旋律化する試みが最も洗練された例だ。Morgenshternの楽曲では過剰なオートチューンが、Faceの初期作では逆に加工の少ない怒鳴り声のような生々しさが、それぞれ違う位置に立つ。

発展

2018年、ロシア警察と当局は複数のラッパー(Face、Husky、IC3PEAK)の楽曲とコンサートを検閲対象にし、コンサート中断・楽曲配信禁止が頻発した。2021年、Morgenshternが銃と麻薬の所持で起訴されドバイに移住、2022年のウクライナ侵攻直後にはOxxxymiron、Face、Noize MCが公然と反戦声明を発表し亡命(Oxxxymironはロンドン、Faceはイスラエル、Noize MCは欧州)、彼らは全員「外国エージェント」指定を受けた。国内側ではMACAN、Morgenshtern(ドバイから配信)、Egor Kreedが市場を支配し、2024-25年もロシア国内Spotify/VKチャートの上位をラップが独占している。

出来事

  • 2013: YouTube『Versus Battle』開始
  • 2015: Oxxxymiron『Горгород』アルバム
  • 2017-08-13: Oxxxymiron vs Slava KPSS Versus Battle(4000万再生)
  • 2018: Face年間最多再生ラッパーに
  • 2019: Miyagi & Andy Panda『Kosandra』
  • 2021: Morgenshtern起訴→ドバイ移住
  • 2022: Oxxxymiron/Face/Noize MC亡命、外国エージェント指定
  • 2023: MACAN『Кинофильм』Spotify年間1位

派生・影響

既存の umbrella `russian-rap`(1990年代 Bad Balance、Detsl、2000年代 Kasta を含む全体)から派生。海外の親戚は米サウス系トラップ、ドイツ語圏バトルラップ(Kollegah, Kool Savas)。文学的バトル系はOxxxymironが自ら公言するようにロシアン・ロック・アンダーグラウンドの詩性(Kino、Aquarium)を継承している。

音楽的特徴

楽器トラップ・ドラム(808キック、スネア、16分/32分ハイハット)、シンセ、オートチューン・ボーカル、時に生弦のサンプル

リズム65-90BPMハーフタイム・トラップ、ロシア語の格変化語尾を利用した密度の高いフロウ、パンチライン主体のバトル文体

代表アーティスト

  • Egor Kreedロシア · 2011年〜
  • Slava KPSSロシア · 2013年〜
  • Miyagi & Andy Pandaロシア · 2015年〜
  • Faceロシア/イスラエル · 2016年〜

代表曲・古典

代表曲・現在

日本との関係

日本での認知はほぼゼロに近いが、2020年代のTikTokでMiyagi & Andy Panda『Kosandra』が短時間ヴァイラルした瞬間があり、この曲を通じてロシア語ラップに触れた日本の若年層が一定数存在する。Oxxxymironは英オックスフォード卒という経歴が日本ロシア語学習者・大学関係者に響き、彼の亡命後の英ロンドン拠点での反戦活動は日本ロシア研究コミュニティで注目されている。日本のラップ・シーン側からの直接的な応答は現時点ではないが、2022年の反戦Istanbulコンサートは日本ロシア語圏メディア(日本語ロシア報道)でも報じられた。

初めて聴くなら

最初はOxxxymiron『Vsyo Slozhno』(2011)、彼の代表曲でロシア語ラップの緻密な韻律構造が味わえる。次にMiyagi & Andy Panda『Kosandra』(2019)、東欧ラップの現代形として最も普及した楽曲だ。Face『Yumor』(2018)は生々しい怒鳴りラップ、Egor Kreed『Million Alykh Roz』(2018)はプガチョワへのラップ側からの返答という文脈で聴ける。YouTubeで2017年VBBのフル動画(3時間)を字幕付きで見るのが本来のジャンル理解には一番早い。

豆知識

Oxxxymironは2022年2月24日のウクライナ侵攻開始翌日、モスクワとサンクトペテルブルクでの公演を中止し、公然と反戦声明を発表、以降ロンドンに拠点を移した。同年3月にはウクライナ支援コンサート『ロシアns Against War』をイスタンブールで開催、収益をウクライナ難民支援に寄付した。彼と Slava KPSS の2017年VBBは物議を呼び、多くのロシア語ラップ・ファンが「Oxxxymironが負けた」と評した一方で、後のインタビューでOxxxymiron本人が「あの負けは自分にとって最良の学びだった」と述懐している。2022年以降、Oxxxymiron、Face、Noize MCはロシア政府から『外国エージェント』指定を受けたが、彼らはむしろその指定を自身のブランディングに利用している。

影響・派生で結ばれたジャンル

現代ロシアン・ラップを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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