吟遊詩人歌
ギター一本と詩で歌う、ソ連の半ば非公認な弾き語り歌。
どんな音か
一人の声とアコースティック・ギター一本を基本とする弾き語り歌。旋律は素朴で、主役はあくまで鋭く文学的な歌詞にある。ヴィソツキーの嗄れた激しい声から、オクジャワの静かな語り口まで幅があり、検閲を逃れた本音や皮肉、人間の機微を歌う。
生まれた背景
1960年代、雪どけ期のソ連で、職業作曲家ではない詩人・俳優・科学者らが自作の詩に自らギターをつけて歌う「作者の歌」が生まれた。国家が管理する大衆歌とは対極の、私的で率直な表現として若者に支持された。コンサートはしばしば非公式に開かれ、自作歌クラブ(KSP)が各地に育った。
聴きどころ
伴奏はあえて簡素で、聴くべきはあくまで言葉だ。ヴィソツキーの場合、嗄れた声を限界まで張り上げる激しさそのものが表現になっている。録音が公式盤ではなく、家庭録音の独特のこもった音質である点も、このジャンルが地下で広まった事情を物語る。
発展
ブラート・オクジャワが先駆けとなり、ウラジーミル・ヴィソツキーが嗄れ声と鋭い社会批評で国民的存在となった。アレクサンドル・ガリチのように体制批判ゆえに国外追放された者もいる。公式の録音が乏しいまま、テープのダビングで爆発的に広がった。
出来事
- 1960年代: 雪どけ期に作者の歌が広がる。
- 1974年: アレクサンドル・ガリチが国外追放される。
- 1980年: ヴィソツキーが死去、非公式に大規模な追悼が起きる。
派生・影響
ソビエト大衆歌に対する地下の対極として位置づけられる。西側のフォーク・シンガーソングライターと精神を共有する。
音楽的特徴
楽器アコースティック・ギター、独唱
リズム簡素な伴奏、詩を主役にした語り歌、自由なテンポ
代表アーティスト
- Bulat Okudzhava
- Vladimir Vysotsky
- Alexander Galich
代表曲
- Песня о друге — Vladimir Vysotsky (1966)
- Молитва — Bulat Okudzhava (1970)
- Кони привередливые — Vladimir Vysotsky (1972)
日本との関係
初めて聴くなら
ウラジーミル・ヴィソツキー『友についての歌(Песня о друге)』(1966)が入口に良く、登山を題材に友情と信頼を歌う代表曲。静かな側面を知るならオクジャワ『祈り(Молитва)』(1970)を。
豆知識
ヴィソツキーの歌は公式にはほとんど発売されなかったが、家庭で録音されたテープ(マグニチズダート)が無数にダビングされ、事実上の全国流通を実現した。国家の発売許可なしに国民的歌手になった稀有な例である。
