メキシカン・スカ
1990年代のメキシコシティ(Chilango)で育った、ジャマイカのスカ+パンクロック+ノルテーニョ+ソン・ハローチョの重層的融合。Panteón Rococó、Maldita Vecindad、Los de Abajo。
どんな音か
メキシカン・スカは、1980年代末から1990年代のメキシコシティ(住民は自らを「Chilango(チランゴ)」と呼ぶ)で育った、ジャマイカ産スカを土台にパンクロック、ノルテーニョ、ソン・ハローチョ、ダンソン、ボレロを重ねた重層的融合ジャンルだ。編成は基本形が大所帯で、エレキギター+ベース+ドラム+ボーカルにトランペット、トロンボーン、サックスのホーンセクション、時にオルガンとティンバレス(サルサ系打楽器)まで加わる。テンポは140-180BPMのスカ領域、拍子は基本的にジャマイカのスカと同じアフタービート(2拍4拍のギター/ホーン刻み)を守るが、そこにノルテーニョ由来の跳ねた2/4や、ボレロの緩やかな3/4を挟み込むことでメキシコらしい音の癖が生まれる。歌詞はスペイン語で、階級、政治、都市の暴力、恋愛、そして下町のユーモアを扱う。
生まれた背景
起点は1985年結成のMaldita Vecindad y Los Hijos del Quinto Patio(呪われた界隈と五番目の中庭の子供たち)で、彼らはメキシコシティ下町の「vecindad(界隈長屋)」文化を主題にした。1989年の代表曲『Pachuco』は、1940年代ロサンゼルスのメキシコ系不良文化「パチューコ」を再解釈した曲で、ジャマイカのスカと、1950年代マンボ、そしてメキシコの下町のスラングを一つの曲に詰め込んだ。ヴォーカルのRoco Pachukote(ロコ・パチュコーテ)はパチューコの装束(ズートスーツ+チェーン)でステージに立ち、以降のメキシカン・スカのビジュアル・コードを確立した。1995年結成のPanteón Rococó(万神殿とロココの意)は、より速く、よりパンク寄りのメキシカン・スカを打ち出し、1997年のデビュー盤『A la Izquierda de la Tierra』は独立系レーベルとして数十万枚を売った。1994年のサパティスタ蜂起以降、メキシカン・スカは学生運動と社会運動のサウンドトラックとして機能してきた。
聴きどころ
ホーンセクションの入り方に注目してほしい。メキシカン・スカのホーンは、ジャマイカのスカのように音色を澄ませて吹くのではなく、時にサルサ的な粗い吹き方をし、時にマリアッチのトランペットのように前に出る。Panteón Rococóの『La Dosis Perfecta』は、イントロのホーンの短い動機から、サビでの合唱アンセム、そしてブレイクでの疾走まで、20年以上メキシコ全土のフェスで観客に合唱され続けている理由が全て詰まっている。Maldita Vecindadの『Pachuco』は、マンボの跳ねた2拍と、スカのアフタービートが交互に現れる複雑な構造が聴きどころで、詩の一節ごとにリズムが微妙に変わる。
発展
1995年結成のPanteón Rococó(万神殿とロココの意)は、より速く、よりパンク寄りのメキシカン・スカを打ち出し、1997年のデビュー盤『A la Izquierda de la Tierra』(地球の左側で)は独立系レーベルとして数十万枚を売った。彼らのアンセム『La Dosis Perfecta』(完璧な用量)は薬物依存と失恋の重層的な歌詞で、20年以上メキシコ全土のフェスで観客に合唱され続けている。同時期にLos de Abajo(1992結成)がキューバ・ソンとの融合を、La Gusana Ciega(1990結成)がスカ・パンクを、Café Tacvbaがロック側からスカを部分的に取り込んだ。1994年のサパティスタ蜂起以降、メキシカン・スカは学生運動と社会運動のサウンドトラックとして機能し、2010年代以降もLGBTQ+デモや女性の権利運動で街頭で鳴っている。
出来事
- 1985: Maldita Vecindad結成
- 1989: Maldita Vecindad『Pachuco』
- 1995: Panteón Rococó結成
- 1997: Panteón Rococó『La Dosis Perfecta』
- 1998: Los de Abajo Peter Gabrielレーベル契約
派生・影響
ジャマイカのスカとイギリスの2 Toneの直接の子孫。同時期のRock en Españolと兄弟関係で、Café TacvbaやMolotovとメンバーの重複や共演が多い。
音楽的特徴
楽器エレキギター、ベース、ドラム、トランペット、トロンボーン、サックス、オルガン、時にティンバレス、アコーディオン、ボーカル
リズムスカの2拍4拍アフタービート、ノルテーニョ由来の2/4、ボレロ3/4、テンポ140-180BPM
代表アーティスト
- Maldita Vecindad y Los Hijos del Quinto Patio
- Los de Abajo
- Panteón Rococó
代表曲・古典
Pachuco — Maldita Vecindad y Los Hijos del Quinto Patio (1989)
Kumbala — Maldita Vecindad y Los Hijos del Quinto Patio (1991)
La Dosis Perfecta — Panteón Rococó (1997)
Latino Latino — Los de Abajo (1998)
La Carencia — Panteón Rococó (2004)
日本との関係
初めて聴くなら
豆知識
「Chilango」はメキシコシティ住民の自称で、原義は不明だが、19世紀の南部からメキシコシティに流入した労働者を「チリ-lango(唐辛子の舌)」と呼んだのが起源とされる。当初は蔑称だったが、20世紀後半以降は住民が誇りを込めて自称する用語に転じた。Maldita Vecindadのバンド名は、彼らが練習場としていた実在のvecindad(集合住宅)の一つの通称で、この住宅は現在もメキシコシティに残っている。Panteón Rococóの「Panteón(パンテオン、万神殿)」と「Rococó(ロココ様式)」の組み合わせは、ヨーロッパの古典建築様式とメキシコの下町ロックのミスマッチを冗談で結合した造語だ。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- 伝統・民族クンビア・ソニデーラ
- ロック・メタルロック・ウルバーノ・メキシカーノ
