ケルト・パンク
アイリッシュ・トラッドとパンクを1982年のThe Poguesが融合させたディアスポラ・ロック。
まずはここから
ひとことで言うとアイリッシュ・トラッドとパンクを1982年のThe Poguesが融合させたディアスポラ・ロック。
まずはこの曲からThe Pogues — Streams of Whiskey ▶ YouTube
代表的な人The Pogues
どんな音か
ケルト・パンクは、アイリッシュ・フォーク・リバイバルの英語バラッドとダンス・チューンを、パンクロックの2〜3分の疾走ビートとディストーション・ギターに乗せたスタイルを指す。ティン・ホイッスル、ボタン・アコーディオン、マンドリン、バンジョー、ボーランなどのトラッド楽器がドラムキットと歪んだギターと並ぶのが編成上の特徴で、歌詞は移民、酒、労働、家族、時に政治的アイデンティティを扱う。テンポは140-180BPMのパンク領域で、サビの合唱は酒場のシンガロングそのままだ。「トラッドを大音量で愛する」若い世代が始めたジャンルで、原理主義的な伝統派からは長らく異端視されていた。
聴きどころ
The Poguesのシェイン・マガウアンの歌唱は「うまい下手」の物差しでは測れない、パブでの語り部の声そのものだ。歯が抜けたようなくぐもりと、時々異様に澄む瞬間の対比が彼の武器だった。Dropkick Murphysの『I'm Shipping Up to Boston』は、バンジョーとティン・ホイッスルとオートチューンなしのシャウトが同じ帯域を争う音圧勝負で、4分間で3回サビが繰り返される単純な構造が完璧に機能する。Flogging Mollyはより速く、フィドルとアコーディオンがリード楽器として前に出てくるので、パンクよりもトラッドの疾走感に近い。
初めて聴くなら
最初はThe Poguesの『Fairytale of New York』(1987)、これは12月に聴くと二倍効く。次に『Streams of Whiskey』(1984)、The Poguesの初期衝動が最も剥き出しになった曲だ。Dropkick Murphys『I'm Shipping Up to Boston』(2005)は日本人にも聴き覚えのある一曲。Flogging Molly『Drunken Lullabies』(2002)、ケルト・パンクのアンセム型として完璧な設計だ。パブでの生ライブが理想だが、家で聴くなら金曜の夜、ビール片手にスピーカーで鳴らすのが正しい作法。
代表アーティスト
- The Pogues
- Dropkick Murphys
- Flogging Molly
代表曲
- The Pogues — Streams of Whiskey (1984)
- The Pogues — A Pair of Brown Eyes (1985)
- The Pogues — Fairytale of New York (1987)
もっと見る(あと3件)
- Flogging Molly — Drunken Lullabies (2002)
- Flogging Molly — If I Ever Leave This World Alive (2004)
- Dropkick Murphys — I'm Shipping Up to Boston (2005)
生まれた背景
1982年、ロンドンのキングス・クロスで結成されたThe Poguesが決定的な起点だった。ロンドン生まれ北アイルランド系のシェイン・マガウアン(元パンク・バンドThe Nipple Erectors)が、パンクの初期衝動でアイリッシュ・バラッドを歌い直すというアイデアで、1984年のデビュー盤『Red Roses for Me』からThe Poguesはロンドンのアイリッシュ・パブと英パンク・シーンを同時に飲み込んだ。
音楽的特徴の詳細
楽器エレキギター、ベース、ドラム、ティン・ホイッスル、ボタン・アコーディオン、マンドリン、バンジョー、ボーラン、ボーカル
リズムパンクの疾走4/4、ジグ由来の6/8跳ね、ワルツ、シンガロング型のサビ
発展
1996年結成のDropkick Murphys(ボストン、労働者街Quincy出身)は米国側の首魁で、映画『ディパーテッド』(2006)に採用された『I'm Shipping Up to Boston』はNFLボストン・レッドソックスの選手入場曲としてスタジアム音楽になった。ロサンゼルスのFlogging Molly(1997結成、ダブリン出身のデイヴ・キング率いる)は、より速いテンポと哀感で三本柱を完成させた。オーストラリアからはThe Rumjacksが2000年代後半に加わり、ケルト・パンクはトランス太平洋のディアスポラ・ジャンルになった。
出来事
- 1982: The Pogues結成
- 1987: The Pogues『Fairytale of New York』
- 1996: Dropkick Murphys結成
- 2005: Dropkick Murphys『I'm Shipping Up to Boston』
- 2006: 映画『ディパーテッド』サントラ
派生・影響
米ハードコア・シーンのフォーク・パンク寄り系譜(Against Me!など)にも影響を残した。
その後の代表曲
- Dropkick Murphys — Rose Tattoo (2013)
日本との関係
日本ではThe Poguesが1980年代後半のパンク好きに小さく認知され、1990年代に来日公演を果たしている。2000年代以降、Dropkick Murphysが映画『ディパーテッド』(2006、監督スコセッシ)で使われたことで一気に日本の映画好きに広まった。国内ではケルト・パンクの精神的継承者としてThe Beltane(1999結成の京都のバンド)、ザ・チェリー・コークス(1993結成の大阪のバンド)が活動を続けており、後者はThe PoguesやDropkick Murphysの日本公演で前座を務めた実績を持つ。ケルト・パンクは日本のロカビリー/サイコビリー系ライブハウス文化と親和性が高い。
豆知識
影響・派生で結ばれたジャンル
系譜図を見る
感触が近い系譜も地域も違うのに、聴くと通じるジャンル
ケルト・パンクが好きな人は、この6つも刺さる可能性が高いです。系譜図には出てこない、意外な隣人たち。
