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伝統・民族

クンビア・ソニデーラ

Cumbia Sonidera

メキシコシティ / メキシコ / 中南米・カリブ · 1970年〜

別名: Sonidero / Cumbia rebajada

1970年代メキシコシティの街頭サウンド・システム文化から生まれた、コロンビア産クンビアの意図的にピッチを下げた再解釈。

どんな音か

クンビア・ソニデーラは、メキシコシティの労働者街(Tepito、Iztapalapa、Neza市)で1970年代以降に育った、サウンド・システム(スペイン語で「Sonido」、屋外に巨大スピーカーを組んで音を出す屋台形式のDJ)によるクンビアのプレゼンテーション文化を指す。核になる音楽的操作は二つある。一つは「rebajada(下げられた)」と呼ばれる、レコードを本来より遅い回転数で意図的に再生してピッチとテンポを落とす手法。もう一つは、演奏中にサウンド・システムのDJ(sonidero)が生の掛け声で聴衆一人ひとりに向けたシャウトアウト(saludos)を挟み込む、ラジオDJに近いパフォーマンスだ。テンポは元曲の70-80%まで落とされ、80-95BPMの粘る中低速になる。編成はコロンビアの原クンビアと同じアコーディオン、パンフルート、ギロ、コンガだが、そこにMPCのビートやシンセを足す2010年代の新世代も出てきている。

生まれた背景

1960年代後半、コロンビアクンビアメキシコに輸入されると、モンテレー市などで独自のメキシカン・クンビアが誕生した。同時期のメキシコシティのバリオでは、レコード店主やコレクターが街頭に自作の巨大スピーカーを組み、コロンビアクンビアを再生する「Sonido」文化が生まれた。Sonido La Changa(ラモン・ロハスが1968年創業)、Sonido Pancho、Sonido Fascinaciónといった屋号のDJたちが競合するようになり、各Sonidoは自分の音の色を出すため、レコードの再生速度を独自にいじり始めた。これが「rebajada」処理の起源で、コロンビアの原曲より遅く、低く、粘るクンビアメキシコシティ独自のサウンドとして確立した。1970年代半ばにはRigo Tovarが電子オルガンとロック・ドラムを取り入れた「クンビア・トロピカル」でこの流れを大衆化し、彼の1977年『Perdóname mi Amor』は北中南米で数百万枚を売る大ヒットになった。

聴きどころ

まず「rebajada」処理の粘り気に耳を澄ませてほしい。原曲より一段遅く、一段低くなったクンビアは、コロンビアの陽気な原型とは全く違う、まるで湿気を帯びた夜の空気のような重さを持つ。Sonidoパフォーマンスでは、曲の途中でDJが「Un saludo para Juan Carlos, en la Colonia Guerrero!(コロニア・ゲレーロのフアン・カルロスへ!)」と実際の聴衆に向けた個人的な挨拶を挟み込む——これが本来のクンビア・ソニデーラの体験で、録音盤では再現しきれない部分だ。Rigo Tovarの『Perdóname mi Amor』を聴くと、電子オルガンがクンビアの伝統的なパンフルートの代わりに前面に出てくる過渡期の音が体感できる。

発展

1970年代半ばにはRigo Tovar(1946-2005、タマウリパス出身)が電子オルガンとロック・ドラムを取り入れた「クンビア・トロピカル」でこの流れを大衆化し、彼の1977年『Perdóname mi Amor』は北中南米で数百万枚を売る大ヒットになった。1980-90年代には、フォーマル・ソニード大会が各バリオの体育館で毎週開催されるようになり、Neza市(メキシコシティ東郊の労働者住宅地)は世界最大のソニード文化圏として認知された。2010年代以降、この文化はニューヨーク・クイーンズ区、ロサンゼルスなどのメキシコ系ディアスポラで再現され、DJカセット、Sonido MartinesらメキシコDJが欧米フェスの回路に登場、Boiler RoomやNTS Radioに定期的に出演するまでになっている。

出来事

  • 1968: Sonido La Changa創業
  • 1977: Rigo Tovar『Perdóname mi Amor』
  • 1985: Neza市ソニード文化最盛期
  • 2011: DJ Sonido Martinesらが欧州フェス出演
  • 2019: Boiler Room Mexico City特集

派生・影響

コロンビア原クンビアの直接の子孫。モンテレー派の「クンビア・ノルテーニャ」やエル・サルバドール派の「クンビア・チーチャ」とは兄弟関係にあり、2010年代のNu-cumbia、Digital Cumbia(ZZK Recordsら)にも影響を残す。

音楽的特徴

楽器アコーディオン、パンフルート、ギロ、コンガ、シンセ、時にドラムマシン、DJの掛け声

リズムコロンビア・クンビアの2/4を70-80%まで減速した中低速、80-95BPM、rebajada処理

代表アーティスト

  • Sonido La Changaメキシコ · 1968年〜
  • Rigo Tovarメキシコ · 1971年〜2005
  • Sonido Panchoメキシコ · 1985年〜

代表曲・古典

日本との関係

日本での認知はほぼゼロだが、2010年代以降のグローバル・ベース系DJシーン(Boiler Room、NTS Radio経由)で、ロサンゼルスのDJカセットやアルゼンチンのSonido Martinesが東京のクラブで稀にプレイされている。渋谷の一部の中古レコード店にはRigo Tovarのレコードが並ぶ。国内でクンビア・ソニデーラを本格的にプレイするDJはまだほとんどいないが、若手DJの間で「これは何だ」と関心を持たれ始めた段階。

初めて聴くなら

最初はRigo Tovarの『Perdóname mi Amor』(1977)、クンビア・ソニデーラの入り口として最も聴きやすい。次にSonido Pancho、Sonido La Changaの実際のライブ・パフォーマンス録音(YouTubeで無料で聴ける)を聴くと、DJの生の掛け声と観客の反応が体感できる。屋外のバーベキュー、家族の集まり、明るい昼下がりが本来の空気——一人で夜に聴く音楽ではなく、他人と踊るための音楽だ。

豆知識

メキシコシティ東郊のNeza市(Nezahualcóyotl)は、1970年代に急速な人口流入で拡張した労働者住宅街で、現在は人口100万人以上、世界最大のクンビア・ソニデーラの中心地とされる。同市では毎週末、公道を封鎖して屋外Sonidoパーティが行われる。「Sonido」という呼称は本来「音」を意味する普通名詞だが、メキシコシティ文脈ではサウンド・システムのブランド名として使われる。DJの本名は多くの場合公開されず、屋号だけで活動する匿名性の伝統も、地下カルチャー的な魅力の一部だ。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1850年代1960年代1970年代クンビア・ソニデーラクンビア・ソニデーラクンビアクンビアチリ・クンビアチリ・クンビアチチャチチャ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
クンビア・ソニデーラを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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メキシコ · 1970年前後 (±25年)