マリアッチ
メキシコ西部ハリスコ州起源の伝統合奏体で、ヴァイオリン、トランペット、ヴィウエラ、ギタロンが共演する国民音楽。
まずはここから
ひとことで言うとメキシコ西部ハリスコ州起源の伝統合奏体で、ヴァイオリン、トランペット、ヴィウエラ、ギタロンが共演する国民音楽。
まずはこの曲からJorge Negrete — México Lindo y Querido ▶ YouTube
代表的な人Jorge Negrete
どんな音か
マリアッチは、メキシコ西部ハリスコ州を発祥地とする、国民音楽としてのメキシコを最も直接的に象徴する合奏形式だ。編成は基本形が7-12人で、ヴァイオリン2-6本、トランペット2本、ヴィウエラ(高音の5弦ギター、コードストロークを刻む)、ギタロン(6弦の大型ベース・ギター、独特の丸みを持つ低音を鳴らす)、リード歌手と合唱で構成される。全員が銀の装飾ボタンを付けたチャロ(伝統的な牧夫)の装束で演奏するのが決まりごとになっており、この視覚的統一が音以上に「マリアッチらしさ」を作っている。テンポと拍子は3/4のワルツ、2/4のポルカ、6/8のワパンゴ、ランチェラ独特のスロー・バラードを行き来する。歌唱は「グリート(grito)」と呼ばれる高揚した叫び声で始まったり途中で挟まれたりする独特の伝統を持つ。
このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。
聴きどころ
まずギタロンの丸い低音に耳を澄ませてほしい。エレクトリック・ベースと違い、木製の共鳴胴が生の低音を出すので、録音でもふくよかな響きを保つ——マリアッチの音の重心はこの楽器にある。次にトランペットの二重奏で、二本が3度または6度でユニゾンする瞬間があり、これがマリアッチ特有のファンファーレ感を作る。歌唱面では「グリート」——曲の頭やサビ前で歌手や他のメンバーが「アイ、アイ、アイ、アイ」と絞り出す叫び——が形式化された高揚感の合図で、これがマリアッチが単なるBGMではなく「祭の音」であることを規定する。ビセンテ・フェルナンデスの『Volver Volver』を聴けば、この構造要素すべてが1曲に凝縮されている。
初めて聴くなら
最初の一曲はVicente Fernándezの『Volver Volver』(1972)。ギタロンの低音、二重奏のトランペット、グリートの叫び、そしてビセンテ・フェルナンデスの絞り出す歌唱、マリアッチの全要素が3分半に凝縮されている。次にホセ・アルフレド・ヒメネス作曲の『El Rey』(彼自身のヴァージョン、あるいはビセンテのカヴァー)を聴けば、ランチェラの叙情がマリアッチ編成でどう鳴るかがわかる。純粋器楽の名演を聴きたければマリアッチ Vargas de Tecalitlánの『La Negra』——彼らのシグネチャー・チューンで、ハリスコ・ワパンゴの6/8の跳ねる魅力が最も明快に伝わる。夜の食卓で、テキーラを傍らに、が本来の作法に一番近い。
代表アーティスト
- Jorge Negrete
- Pedro Infante
- José Alfredo Jiménez
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- Vicente Fernández
代表曲
- Jorge Negrete — México Lindo y Querido (1945)
- Pedro Infante — Cien Años (1953)
生まれた背景
起源は19世紀のハリスコ州の農村音楽グルーポ・デ・コクラ(Coculán)にあり、当初は数人の弦楽器奏者による小編成の民俗音楽だった。1821年のメキシコ独立後、19世紀を通じて次第に町の広場と結婚式の音楽として広まった。
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1907年、Cuarteto Coculenseの最初の商業録音が転換点となり、1930年代のラジオ黄金期にホルヘ・ネグレテとペドロ・インファンテが「歌うチャロ(charro cantor)」として全国的スターとなった。1945年結成のマリアッチ Vargas de Tecalitlán(1897年テカリトラン創業の初期集団の系譜)は現代マリアッチの標準編成を確立し、以降80年にわたり世界最高峰の職業マリアッチ楽団としてハリウッド映画からメキシコ大統領就任式まで演奏を続けている。革命(1910-20)以降、政府主導の「メスティサヘ(混血民族の統合)」政策のもとで、マリアッチは公式のメキシコ国民音楽として制度化された。
音楽的特徴の詳細
楽器ヴァイオリン、トランペット、ヴィウエラ、ギタロン、声
リズム中速3/4と2/4、合奏・独唱の交替、ランチェラ進行
発展
1930~50年代のラジオと映画黄金期にホルヘ・ネグレテ、ペドロ・インファンテが「歌うチャロ」として全国化し、ハリウッドにも影響を与えた。1950年以降ホセ・アルフレド・ヒメネスが作曲家として、ビセンテ・フェルナンデスが歌手としてマリアッチの古典化を完成させた。2011年にユネスコ無形文化遺産登録。
出来事
- 1821: メキシコ独立
- 1907: ヴァスケス・マリアッチ初の国際公演
- 1934: ラジオ・メキシコで定期放送
- 1945: 「マリアッチ・バルガス・デ・テカリトラン」結成
- 2011: ユネスコ無形文化遺産登録
派生・影響
ランチェラ、メキシコ・ボレロ、ノルテーニョ、ラテン・ポップ全般に深い影響。
日本との関係
日本におけるマリアッチの認知は、ハリウッド映画『Three Amigos』(1986)や『Coco/リメンバー・ミー』(2017)のサントラを通じて広まった経路が最も大きい。特にPixarの『Coco』でハリスコ州の家族と音楽が丁寧に描かれたことで、2010年代後半の日本の若年層にも「メキシコの魂の音楽」としてのマリアッチ像が定着した。国内には東京拠点のマリアッチ・サムライ・アステカ(2007年結成、日本人メンバーによる本格的マリアッチ楽団)があり、青山メキシカン大使館主催のシンコ・デ・マヨ祭で定期演奏している。また、東京・青山のメキシコ大使館主催シンコ・デ・マヨ祭は毎年5月にマリアッチ演奏を伴い、日本人リスナーが実演のグリート(唸り叫び)を体験できる数少ない現場となっている。
豆知識
影響・派生で結ばれたジャンル
系譜図を見る
感触が近い系譜も地域も違うのに、聴くと通じるジャンル
マリアッチが好きな人は、この6つも刺さる可能性が高いです。系譜図には出てこない、意外な隣人たち。
