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ラテン・カリブ

マリアッチ

Mariachi

ハリスコ州 / メキシコ / 南米 · 1850年〜

メキシコ西部ハリスコ州起源の伝統合奏体で、ヴァイオリン、トランペット、ヴィウエラ、ギタロンが共演する国民音楽。

どんな音か

メキシコの民俗音楽を代表する編成。楽団は8〜12人で、ヴァイオリン4〜6本、トランペット2〜3本に、高音を刻む5弦のヴィウエラ、低音を支える6弦ベースのギタロン、和音を担うクラシック・ギターが加わる。テンポは1分間に80〜130拍(BPM)ほど。曲種は幅広く、速い舞踊歌の「ソン・ハリシエンセ」、3拍子・4拍子で朗々と歌い上げる「ランチェラ」、ゆったりした恋歌「ボレロ」、6/8拍子で弾むような「ワパンゴ」、物語を歌う「コリード」などがある。男女ともに歌い手がいるが、共通するのは喉を開いた力強い高音だ。感情が高まる場面では「グリト(grito、叫び声)」が突き上げる。歌詞はスペイン語で、テーマは祖国愛、母への想い、恋愛、酒、復讐など。衣装は銀ボタンをあしらった黒いチャロ・スーツに、大きなソンブレロを合わせる。

生まれた背景

19世紀後半、メキシコ西部のハリスコ州コクラ(Cocula)を中心に、ナヤリット州やミチョアカン州にもまたがる地域で、農村の小規模楽団として発展した。当初はヴァイオリン、ハープ、ギターによる弦楽編成で、トランペットはなかった。1930年代にメキシコシティへ進出すると、ラジオの影響もあってトランペットが定着し、これが現代マリアッチの響きを決定づけた。この標準化を主導したのが、1897年創設のマリアッチ・バルガス・デ・テカリトラン楽団だ。1931年から率いたシルベストレ・バルガスのもとで編成と編曲の型を固め、後進の音楽監督の多くを育てた。1934年に発足したラサーロ・カルデナス政権は、マリアッチを後援・普及させた(就任式でのバルガス楽団の演奏が象徴的だったと伝えられる)。これにより全国的な地位が確立した。さらに1940年代以降の「メキシコ映画黄金期」を背景に、歌手としても人気だったスター俳優、ペドロ・インファンテやホルヘ・ネグレテ、のちのビセンテ・フェルナンデスらの映画を通じて世界へ広まった。2011年にはユネスコ無形文化遺産に登録された。国境を越えて、いまもメキシコそのものの音として鳴り響いている。

聴きどころ

トランペットの「パパパパー」というファンファーレ的なリフ。ヴァイオリンとトランペットが歌の合間に短いフレーズを掛け合う様子(長くユニゾンで揃えるよりも、二〜四小節のフレーズを交換し合うのが基本だ)。その下を支えるギタロンの低音。そして6/8拍子のソンやワパンゴは、3拍子と6拍子を1小節おきに行き来するように聞こえる。手拍子を合わせにくい独特の跳ねる揺れ(音楽用語でヘミオラ)こそが、マリアッチの躍動の正体だ。ライブでは演者のグリトに観客もグリトで応える。演奏の締めくくり方(最後にそろえる一打や、見得を切るような決めの所作)も様式化されている。

発展

1930~50年代のラジオと映画黄金期にホルヘ・ネグレテ、ペドロ・インファンテが「歌うチャロ」として全国化し、ハリウッドにも影響を与えた。1950年以降ホセ・アルフレド・ヒメネスが作曲家として、ビセンテ・フェルナンデスが歌手としてマリアッチの古典化を完成させた。2011年にユネスコ無形文化遺産登録。

出来事

  • 1821: メキシコ独立
  • 1907: ヴァスケス・マリアッチ初の国際公演
  • 1934: ラジオ・メキシコで定期放送
  • 1945: 「マリアッチ・バルガス・デ・テカリトラン」結成
  • 2011: ユネスコ無形文化遺産登録

派生・影響

ランチェラ、メキシコ・ボレロ、ノルテーニョ、ラテン・ポップ全般に深い影響。

音楽的特徴

楽器ヴァイオリン、トランペット、ヴィウエラ、ギタロン、声

リズム中速3/4と2/4、合奏・独唱の交替、ランチェラ進行

リズムを聴く

このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。

ワルツ · 170 BPM

代表アーティスト

  • Jorge Negreteメキシコ · 1936年〜1953
  • Pedro Infanteメキシコ · 1939年〜1957
  • José Alfredo Jiménezメキシコ · 1947年〜1973
  • Vicente Fernándezメキシコ · 1966年〜2021

代表曲

日本との関係

日本ではメキシコ料理レストランのBGMとして親しまれている程度だが、東京のJalisco マリアッチ、横浜の楽団があり、結婚式やイベントで活動している。映画『リメンバー・ミー』(2017)で世界的にマリアッチへの関心が再上昇した。

初めて聴くなら

器楽の古典なら、マリアッチ Vargas de Tecalitlán『La Negra』。ハリスコ州を代表する一曲だ。歌付きでは、Vicente Fernández『El Rey』(1973年録音、ホセ・アルフレド・ヒメネス作)が代表的なランチェラ。アルバムでまとめて聴くなら、Linda Ronstadt『Canciones de Mi Padre』(1987)が、スペイン語を解さない人にも驚くほど入りやすい入門盤だ。近年の例なら、Christian Nodal『Adiós Amor』(2017)。マリアッチノルテーニョを融合した「マリアチェーニョ」に分類される一曲だ。

豆知識

マリアッチ」の語源には諸説ある。フランス語の「mariage(結婚式)」が訛ったという説は俗説として広く知られるが(1860年代のフランス占領期に持ち込まれたとされる)、いまは否定されている。マリアッチという語がそのフランス占領より前の記録に現れる以上、時代が合わないのだ。現在有力なのは、先住民の言語に由来するという説だ。ハリスコ州中部の先住民コカ族の言葉(その言語は現在では消滅している)から来たとされる。メキシコでは1月21日が「マリアッチの日」。そしてメキシコの伝統馬術「チャレリーア」とマリアッチを組み合わせた世界最大級の祭典「マリアッチとチャレリーアの国際大会(Encuentro Internacional del マリアッチ y la Charrería)」が、毎年8月末から9月にかけてグアダラハラで開催される。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1700年代1850年代1920年代マリアッチマリアッチソン・ハロチョソン・ハロチョランチェラランチェラ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
マリアッチを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

マリアッチ の系譜全体図(多段)を見る