UKソウル
英国新世代R&B/ネオソウル。Olivia Dean、Cleo Sol、Joy Crookesらが2020年代に台頭。
どんな音か
UKソウルは、2020年代前半にイギリスで台頭した新世代のR&B/ネオソウルを指す。BPMは70〜95の落ち着いた範囲が中心で、生ドラムの軽い跳ね、暖かいエレピ、ナイロン弦ギター、ストリングスの薄い層が組み合わさる。USの2010年代以降のR&Bが808重視のトラップ寄りに進んだのに対し、UKソウルは1970年代のフィラデルフィア・ソウルやイギリスアシッドジャズ、Sade、Amy Winehouseの系譜を引き継ぎ、より生楽器的でジャズに近い質感を残す。Olivia Deanの柔らかいビブラート、Cleo Solの呼吸の長い歌い口、Joy Crookesのロンドン訛りを残した語り、Mahaliaのストリングス入りバラードが、それぞれ違う角度から同じ温度を作っている。
生まれた背景
起点は2010年代後半のSault(プロデューサーInflo率いる匿名集団)と、その流れで頭角を現したCleo Sol、Little Simzだ。彼らは英国黒人コミュニティの歴史と日々の感情を、派手なヒットではなく地味で深いアルバム作りで描いた。背景には、Brexit以降の英国社会の分断と、Black Lives Matterを経た2020年のロンドン黒人音楽シーンの再編成がある。同時期にOlivia DeanやJoy Crookesといった、ロンドンの多文化な街区で育った若い女性シンガーが、ジャズ系学校教育(BRIT Schoolなど)から次々に登場した。Amy Winehouseの早逝で空いていた「ロンドンのソウル歌手」の席を、新世代が静かに埋めた格好になる。
聴きどころ
代表アーティスト
- Joy Crookes
- Cleo Sol
- Olivia Dean
代表曲
- Why Don't You — Cleo Sol (2020)
- Feet Don't Fail Me Now — Joy Crookes (2021)
- Dive — Olivia Dean (2023)
日本との関係
日本ではAmy Winehouseが2007年前後に大ヒットして以来、「ロンドンのソウル」への土壌が長く続いている。Olivia DeanやJoy Crookesは2023年以降、東京のセレクトショップやカフェのBGMで定着しつつあり、来日公演も小規模ながら実現している。日本のシーンとの接点としては、SIRUPやAAAMYYY、iri、Daichi Yamamotoらの世代がUKソウル/UKジャズ(Tom Misch、Joel Culpepperら隣接ジャンル)を明確に参照しており、彼らのアレンジに同じドラムの座らせ方が出てくる。Cleo Sol周辺のSault作品は、サブスク登場前の輸入レコード文化を知る世代にも刺さりやすく、世代を超えて聴かれている。
初めて聴くなら
最初の一枚はCleo Sol『Mother』(2021)。出産後に書かれたアルバムで、エレピと弦の質感が一晩中部屋に置いておきたくなる温度を保つ。一曲ならOlivia Dean『Dive』、もう少しジャジーに踏み込みたい人はJoy Crookes『Feet Don't Fail Me Now』、深夜のひとり時間にはMahalia『What You Did』。どれもクラブで踊るより、湯上がりや読書、深夜のドライブの帰り道に向く音楽だ。歌詞は分からなくても、息と楽器の間の空気でちゃんと心が動く設計になっている。
豆知識
「UK Soul」という呼び方は厳密な業界用語ではなく、Spotifyのエディトリアル・プレイリスト名やジャーナリストの記事で使われ始めた緩いカテゴリーだ。本人たち(Cleo Sol、Olivia Deanら)は単に「R&B」「Soul」と名乗ることが多い。匿名集団Saultは2019年のデビュー以来、写真もインタビューもほとんど出さずに毎年複数アルバムを無料公開し続けるという異例の活動形態で、2020年代UKソウル拡散の影の起点になった。BRIT School(ロンドン公立の芸術高校)はAmy Winehouse、Adele、King Krule、そしてOlivia Deanを輩出しており、UKソウルは「学校が育てたシーン」という側面も強い。
