ダブステップ
2000年代初頭のロンドンで成立した、低重心のサブベースとシンコペートしたリズムを特徴とする電子音楽。
どんな音か
BPMは140前後(おおむね138〜142)。ダンス音楽としては中速だが、体感はずっと遅い。普通のダンス音楽がスネア(タンッと鳴る乾いた太鼓の音)を2拍目と4拍目に置くのに対し、ダブステップは重いスネアを3拍目だけに落とす。これがドラムを半分の速度に感じさせる仕組みで、「ハーフタイム」と呼ばれる骨格になっている。中心になるのはシンセでつくる低音(シンセ・ベース)だ。この低音の音色を周期的に揺らし、「ウォブル(うねり)」と呼ばれる独特のゆらぎを生むのが、このジャンルの顔になっている。ドラムは数を絞り、ダブ由来の質感をまとう。あえての無音(打音と打音のあいだの間)、長く尾を引く残響、そして2ステップ由来の跳ねたノリが、低音だけでは出せない奥行きを生む。ヴォーカルは少なく、短いフレーズが断片的に差し込まれる程度。こうした曲はクラブの大型サブウーファーで鳴らすことを前提につくられる。だから低音域がとくに強調され、耳で聞くというより体で感じる音になる。
生まれた背景
2000年代前半の南ロンドン(クロイドン)。UKガラージとダブを下敷きに、Skream、ベンガ、Mala(Digital Mystikz)らが、レコード店ビッグ・アップルとクラブイベント「FWD>>」を拠点に実験を重ねた。2007年にはBurialの2枚目のアルバム『Untrue』が世界的に高く評価され、より陰影に富んだ方向性を示した。2010年前後にはアメリカ合衆国でSkrillexが、攻撃的でメロディアスな派生型「ブロステップ(brostep)」をEP『Scary Monsters and Nice Sprites』(2010)、続く『Bangarang』(2011)で大ヒットさせ、ダブステップはEDMの主流ジャンルの一つになった。以降は本来のUKダブステップと派生のブロステップが、別々の場で共存している。
聴きどころ
まず「ハーフタイム」を確かめたい。140BPMのダンス曲なのに、手拍子してみると1小節に強いスネアが1発しか来ない。次に「ドロップ」と呼ばれる、ベースが落ちる瞬間。曲の前半で緊張を溜めて、ドロップで一気に解放する構造だ。ウォブル・ベースのうねるような低音は、音量を上げるほど体に響く。サブベースは耳ではなく腹で感じる音域で、スマートフォンのスピーカーでは魅力が半分も伝わらない。
リズムを聴く
このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。
代表アーティスト
- Benga
- Chase & Status
- Skream
- Skrillex
- Burial
- Joy Orbison
代表曲
- Midnight Request Line — Skream (2005)
- Eastern Jam — Chase & Status (2008)
- Night — Benga (2008)
- Hyph Mngo — Joy Orbison (2009)
- Scary Monsters and Nice Sprites — Skrillex (2010)
日本との関係
初めて聴くなら
まずアルバム全体で空気感を味わうなら、Burial『Untrue』(2007)。一曲で派手な落差を体感するなら、Skrillex『Bangarang』(2011)。その中間を埋めるのが、Magnetic Man『I Need Air』(2010, シングル)。UKの正統派からEDM寄りまでを一望できる三作だ。ここまでは英米。日本のシーンを覗くなら、SUNGA『Reactor』を。
豆知識
「ダブステップ」の語源は「Dub」と「2-step」(UKガラージのリズム名)を組み合わせたもの。dubと2-stepを核とするこの音を、ひとつのジャンルとして名づけたとされるのが、レーベル Tempa/Ammunition Promotions の Neil Jolliffe だ。Sarah Lockhart や Oris Jay らとの会話のなかで生まれた呼び名と言われ、ライターの Martin Clark が2002年に米誌 XLR8R に書いた記事で広まった(DJ Hatcha は命名者ではなく初期の代表的なDJ)。一方、覆面で活動したBurialの正体は長く謎に包まれていたが、本人(William Bevan)は2008年にウェブ上で身元を明かした。本人いわく、今もスタジオを持たず、自宅でラップトップだけで制作しているという。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- エレクトロニックグライム
- エレクトロニックフォークトロニカ
- エレクトロニックホーントロジー
- エレクトロニックニューロファンク
- エレクトロニックリキッド・ドラムンベース
- エレクトロニックジャンプ・アップ
- エレクトロニックフューチャー・ガラージ
- エレクトロニックテック・ハウス
