ホーントロジー
2005年頃英国で批評理論的に提唱された、過去の「失われた未来」を喚起する音楽美学。
どんな音か
ホーントロジーは、過去に想像された未来が古いメディアの中から幽霊のように戻ってくる感覚を扱う音楽美学。劣化したテープ、古い教育番組のシンセ、ラジオ放送の残像、子ども向け番組の不気味さが素材になる。The Caretakerでは古い社交ダンスの録音が記憶の霧に沈み、Pye Corner Audioではアナログ電子音が失われたSFのように鳴る。
生まれた背景
2000年代半ばの英国批評で、Jacques Derridaのhauntologyという概念を音楽や映像文化に応用する形で語られた。Ghost Box周辺の作品、古い公共放送、図書館音源、70年代の電子教育番組への郷愁が重要な背景にある。単なるレトロ趣味ではなく、実現しなかった未来への違和感を含む。
聴きどころ
古さそのものより、記憶が壊れていく質感を聴く。テープの揺れ、こもった音質、懐かしいはずなのに不安なメロディが鍵になる。曲がはっきり進むより、断片が浮かんでは消える作品も多い。映像やジャケットの質感と合わせると理解しやすい。
発展
The Caretaker『Everywhere at the End of Time』(2016-19)が大規模な国際的注目を集めた。Vaporwaveとも美学的に交差する。
出来事
- 2005: Ghost Boxレーベル定式化 / 2006: The Caretaker『Theoretically Pure Anterograde Amnesia』 / 2016-19: 『Everywhere at the End of Time』
派生・影響
Vaporwave、Ambient、Library Music Revival、Dark Ambient。
音楽的特徴
楽器古いテープ、サンプラー、シンセ、Library Music素材
リズムテンポレス、テープ劣化、ノスタルジア
代表アーティスト
- William Basinski
- The Caretaker
- Belbury Poly
- Pye Corner Audio
代表曲
- Disintegration Loops — William Basinski (2002)
- The Willows — Belbury Poly (2004)
- Sleep Games — Pye Corner Audio (2012)
Everywhere at the End of Time — The Caretaker (2016)
Theoretically Pure Anterograde Amnesia — The Caretaker (2005)
日本との関係
初めて聴くなら
記憶の崩壊を長く体験するなら「Everywhere at the End of Time — The Caretaker (2016)」。英国電子音の影を聴くなら「Sleep Games — Pye Corner Audio (2012)」。より短い入口には「The Willows — Belbury Poly (2004)」がよい。
豆知識
ホーントロジーはhaunt、幽霊のように取り憑くこととontology、存在論を掛けた言葉。音楽では、もう存在しないはずの未来像が、古い音源や電子音を通じて現在に残っている感覚を指す。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- エレクトロニックダブステップ
- エレクトロニックグライム
- エレクトロニックフォークトロニカ
- エレクトロニックニューロファンク
- エレクトロニックリキッド・ドラムンベース
- エレクトロニックジャンプ・アップ
- エレクトロニックフューチャー・ガラージ
- エレクトロニックUKベース
