サイケデリックロック
1960年代後半に成立した、ドラッグ文化と結びついた幻想的・実験的なロック。
どんな音か
1960年代後半のLSD(幻覚剤)体験を音で再現しようとしたのが、この音楽の出発点だ。この「意識の変化を音にする」という発想が、これから挙げる技法すべての根っこにある。ロックの編成にシタール、メロトロン、ハモンドオルガン、フルートを加え、テープ逆回転やフェイザー、フランジング(いずれも音をうねらせ、回転するように聞かせる効果)といったスタジオの工夫を重ねる。歌詞は幻覚体験、神秘思想、宇宙、子供時代、不思議の国のアリス的なイメージ。曲は5〜10分と長く、即興(ジャム)の聴かせどころをたっぷり取る。録音では、音を左右に振る(パンニング)、エコーで奥行きを作るといった操作が定番だった。テンポは曲によって大きく幅がある。スタジオそのものが一つの楽器になった——それがこの音楽の核心だった。
生まれた背景
聴きどころ
このジャンルの主役はサビではなく、長い即興(ジャム)だ。通常のヴァース・コーラス構造を逸脱し、ジャム・セクションでは同じ音階(スケール)の上を何分も漂い続けるギターが聴きどころになる。これを、目的地のない散歩につき合うつもりで追いかけるのがコツだ。シタールの低い一音がずっと鳴り続け(ドローン)、和音が動かないまま響きだけが変化していくのも味わいたい。「Itchycoo Park」のフランジングのように、スタジオの仕掛けそのものが楽曲の主役に躍り出る瞬間にも注目したい。
代表アーティスト
- The Beatles
- Jimi Hendrix
- Jefferson Airplane
- Pink Floyd
- The Doors
代表曲
- Interstellar Overdrive — Pink Floyd (1967)
- Light My Fire — The Doors (1967)
- Lucy in the Sky with Diamonds — The Beatles (1967)
- Purple Haze — Jimi Hendrix (1967)
- White Rabbit — Jefferson Airplane (1967)
日本との関係
1969〜71年に四人囃子、サディスティック・ミカ・バンド、フード・ブレインらがサイケデリック・ロックを直接の参照点にした。1990年代以降のフリッパーズ・ギターやコーネリアス、最近ではsuperorganism、Tempalay、ASIAN KUNG-FU GENERATION、yonawoまで、サイケデリック・ロックの色彩感は日本のオルタナ系に脈々と引き継がれている。
初めて聴くなら
1曲だけ聴くなら、The Beatles『Tomorrow Never Knows』(1966)。3分弱のなかにサイケデリックの全要素が詰まっている。アルバムなら、Pink Floyd『The Piper at the Gates of Dawn』(1967)、The Doors『The Doors』(1967)。米国西海岸なら、Jefferson Airplane『Surrealistic Pillow』(1967)。
豆知識
「サイケデリック(psychedelic)」という語をポピュラー音楽で初めて使った例とされるのは、1964年にThe Holy Modal Roundersがデビューアルバムの『Hesitation ブルース』で「psycho-delic」と歌い込んだ箇所だとされる。これは伝統的なブルースの替え歌で、「サイケデリック」がドラッグ文化と結びつく前の使い方だった。ザ・バーズの「Eight Miles High」(1966)——ジョン・コルトレーンとラヴィ・シャンカルの影響をうかがわせる曲だが——は、麻薬を想起させるとして一部のラジオ局が放送を見送った。当時バンドは「飛行機の高度の話だ」と釈明している。ただし後年、ジーン・クラークとデヴィッド・クロスビー自身が、薬物体験の影が差していたことを認めている。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- ラテン・カリブサルサ
- エレクトロニックプロセス音楽
- ヒップホップ・R&Bファンク
- ロック・メタルカントリーロック
- エレクトロニックドローン・ミュージック
- ジャズフュージョン
- 宗教・霊歌コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック
- エレクトロニックディスコ
