プログレッシブロック
1960年代末のイギリスで生まれた、長尺・複雑な構成と演奏技術を重視するロック。
どんな音か
ロックの編成に、クラシック、ジャズ、現代音楽の要素を取り込んだ複雑な音楽である。テンポは一曲のうちに何度も移ろい、5拍子や7拍子のように1小節を奇数で割る変拍子(楽譜上は5/4・7/8などと書く)も多用される。足でリズムを取ろうとすると裏切られる——それがプログレの仕掛けだ。一曲が10〜30分におよぶ長尺で、いくつもの場面をつなげた組曲形式がよく使われる。鍵盤の定番は、メロトロン(鍵盤を押すと、あらかじめテープに録音した弦楽器や合唱の音が鳴る楽器)、ハモンドオルガン、Moogシンセサイザー。歌詞は神話やSF、文学、哲学、そして社会批判まで踏み込む。ボーカルは、語りかけるような低めの声から、オペラのソプラノのような甲高い声まで幅広い。スタジオの最先端技術を投入した録音で、音が左右のどちらから、どのくらいの距離で聞こえるかまで緻密に作り込まれている。ヘッドホンで聴くと、音が左右に動き、頭の中をぐるりと回る。技術を限界まで使った「音の立体設計」だ。
生まれた背景
ロックが「3分間の歌」であることをやめた数年間があった。1968〜70年のイギリスで、King Crimsonの不協和音、Pink Floydの宇宙的な浮遊感、Yesの組曲が立て続けに現れ、ジャンルが一気に立ち上がる。同バンドの『In the Court of the Crimson King』(1969)がその方向性を決定づけ、すでに活動していたPink Floydに続き、Genesis、Yes、Emerson, Lake & Palmer、Jethro Tull がこの路線に踏み込んだ。1971〜77年が黄金期。Yes『Close to the Edge』(1972)の研ぎ澄まされた組曲、Pink Floyd『The Dark Side of the Moon』(1973)の静かな狂気、Genesis『The Lamb Lies Down on Broadway』(1974)の都市叙事詩——どれもロックが交響曲に挑んだ記録だ。だが1977年前後にパンク・ロックが台頭すると「大げさで退屈、お高くとまっている」と叩かれ、初期型の長尺・組曲路線は急速に退潮した。ただし主要バンドの多くは1980年代によりポップな方向へ転じ、商業的成功を収めた。1980年代以降は新世代(Marillion、Dream Theater、Tool)が路線を引き継いでいる。
聴きどころ
まず注目すべきは、曲の途中で拍子やテンポが切り替わる瞬間だ。Yes『Heart of the Sunrise』は、変拍子の高速リフと安定した拍子のセクションが交差する。King Crimson『Discipline』期(1981)では、噛み合いそうで噛み合わない2本のギターが延々と回り続ける——別々の拍子を同時に刻むポリリズムの妙だ。アルバム1枚で物語を語る「コンセプト・アルバム」の構成感も聴きどころ。メロトロンの弦、その上にハモンドオルガン、さらにムーグのリードと、鍵盤が層になって重なる瞬間にも耳を澄ましたい。そしてプログレは、ギターより鍵盤が主役になる稀有なロックだ。リック・ウェイクマン(Yes)が幾重にも鍵盤を積み、キース・エマーソン(ELP)はオルガンを蹴り倒さんばかりに弾き倒し、トニー・バンクス(Genesis)が物語を奏でる——通常ならギターが受け持つ花形ソロを、鍵盤が奪っていく。
代表アーティスト
- Pink Floyd
- King Crimson
- Yes
代表曲
- 21st Century Schizoid Man — King Crimson (1969)
- Roundabout — Yes (1971)
- Money — Pink Floyd (1973)
- Shine On You Crazy Diamond — Pink Floyd (1975)
- Comfortably Numb — Pink Floyd (1979)
日本との関係
1970年代日本のプログレ・シーン: 四人囃子、Far East Family Band、Mr. Sirius、Pageant、Outer Limits。海外プログレの来日公演は熱狂的に迎えられ、特にKing Crimsonの三宅島公演(1995)、Pink Floydの東京ドーム公演(1988)は伝説。日本人プログレ・ファンは欧米で「最も研究熱心」と評価される。
初めて聴くなら
1枚だけ聴くなら、Pink Floyd『The Dark Side of the Moon』(1973)。世界で3000万枚以上を売り上げた、プログレの間口を最も広げた一枚だ。激しい音を聴きたいなら、King Crimson『In the Court of the Crimson King』(1969)。壮大な物語性を味わいたいなら、Yes『Close to the Edge』(1972)。
豆知識
Pink Floyd『The Dark Side of the Moon』(1973)は、1973〜88年に通算741週(断続的に)、アメリカ合衆国Billboard 200にチャートインし、当時のチャート在籍週数の最長記録となった。最大4500万枚とも言われる売上とあわせ、同チャート史上屈指の長期在籍アルバムである。Yesのリック・ウェイクマンは、1973〜74年の『Tales from Topographic Oceans』ツアーで、多数のメロトロン、ミニムーグ、ハモンドオルガンを半円状に並べ、その中央に立った。Genesisのピーター・ガブリエルは1974〜75年の『The Lamb』ツアーで、「スリッパーマン」(全身を膨らませた異形の着ぐるみ)など、曲ごとに役柄を演じ分ける凝った衣装と特殊効果を駆使し、演劇的なステージを完成させた。
