ポップ

サイケポップ

Psychedelic Pop

オーストラリア / オセアニア · 2010年〜

2010年代以降のサイケデリック寄りポップ。Tame Impala(Kevin Parker)が中心、Pond、MGMTらが系列。Beatles以降のサイケ伝統を電子化・現代化。

どんな音か

サイケポップ(2010年代以降)は、1960年代後半のサイケデリック・ロックを現代のベッドルーム録音と808世代のリズム感覚で書き直したジャンルだ。BPMは100〜120のミディアムで、フェイザー/フランジャーで揺れるエレキギター、コーラスのかかった甘いシンセ、ややハイ落ちした録音マスター、そしてマルチトラックでレイヤーしたファルセット歌唱が特徴になる。Tame Impalaの『Currents』(2015) で確立された「アナログ風だが完全にデジタルで作られた」温度感が標準で、聴くと水中で泳いでいるような浮遊感がある。Pondのように1960年代の質感を強く残すバンド、MGMTのインディポップ寄りの手触りまで含めて、共通するのは「夢の中の歌」のような半覚醒の声と空気だ。

生まれた背景

発端は2000年代後半のオーストラリア・パースで、Kevin Parker率いるTame Impalaが自宅録音で『Innerspeaker』(2010) を完成させたことだ。彼はジョン・レノンやTodd Rundgrenを敬愛しつつ、Pro ToolsとMIDIで全パートを一人で作り上げ、結果として「60年代と現代の中間」のような音を発明した。同じパースのコミュニティから派生したPond、アメリカ合衆国コネチカット出身のMGMT、イギリスTemples、アメリカ合衆国Unknown Mortal Orchestraらが2010年代を通じて並走し、ジャンルの輪郭を固めた。背景にはストリーミング時代のリスナーが、ジャンル横断的にレトロな質感を求めた潮流と、Logic/Ableton世代のDIY録音文化がある。

聴きどころ

まずベースに耳を向けてほしい。Tame Impalaの『The Less I Know The Better』では、ベースが歌よりも前に出るほどに大きく録音されている。フィルターをかけて低音を強調することで、ファンクとサイケが同居する独特の腰位置が生まれる。次に空間処理で、ボーカルとギターに長いリバーブをかけ、すべての音が遠くから届くような距離感が作られる。三つ目はファルセットで、Kevin Parkerは地声で歌わずほぼ全曲ファルセットで通し、これがジョン・レノン以降の「夢を見ているような男性ボーカル」の系譜を引き継いでいる。曲の構造はポップだが、音響処理だけでサイケになるという作りだ。

代表アーティスト

  • MGMTアメリカ合衆国 · 2002年〜
  • Tame Impalaオーストラリア · 2007年〜
  • Pondオーストラリア · 2008年〜

代表曲

日本との関係

日本ではTame Impalaがフジロックフェスティバル2016、2019年に出演し、若いリスナーに浸透した。日本側の応答として、yuragi、cero、HiSGI(NOT WONK)、Mitsume、betcoverといったインディ/オルタナ系が、サイケポップ的な音響処理を自然に取り入れている。藤井風の一部の曲にもファルセット主体の浮遊感が見えるが、彼の場合はR&B経由の取り込みであり、サイケポップを直接参照しているとは限らない。アニメ側では『SONNY BOY』(2021) のサウンドトラックや、現代のシティポップリバイバル系のミュージックビデオに、サイケポップ的な色合いが滲んでいる。

初めて聴くなら

入口は迷わずTame Impala『The Less I Know The Better』。中毒性のあるベースラインで、サイケポップ的快楽の核が一発で分かる。アルバム単位ならTame Impala『Currents』、もう少し60年代寄りが好きならPond『The Weather』、ポップに寄り切るならMGMT『Time to Pretend』。深夜の運転、ヘッドホンを付けたまま部屋でぼんやりする時間、明け方の散歩などに合う。クラブで踊るより、半分眠った状態で聴くと音響の細工が立体的に見えてくるジャンルだ。

豆知識

Tame Impalaは「バンド」と思われがちだが、スタジオ録音上は完全にKevin Parker一人のプロジェクトで、ライブ時のみメンバーが揃う。彼はテイラー・スウィフトの『Lover』(2019) やリアーナ周辺のプロデュースにも関わり、サイケポップの音響感覚はメジャー・ポップの中に浸透している。もうひとつ、サイケポップの主要拠点のひとつであるパース(西オーストラリア)は世界で最も孤立した百万都市と呼ばれる場所で、外界から距離があるからこそ独自の音響実験が育ったと指摘されることが多い。日本で言えば、東京から離れた場所で独自のサウンドが育ったceroの東京の田端や、青森のbetcover周辺の環境と少し似ている。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1950年代1960年代1980年代2010年代サイケポップサイケポップポップポップサイケデリックロックサイケデリックロックドリームポップドリームポップ凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
サイケポップを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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