グアラチャ(エレクトロニカ)
2010年代コロンビアで成立した、トライバル・ハウス+コロンビア沿岸チャンペータ系のエレクトロ・ダンス。別名アレテオ。
どんな音か
音の三点セットは、130-135BPMの4つ打ちキック、tribal guarachero(メキシコ系)由来のシンコペーション・パーカッション(コンガ、シェイカー、時にコロンビア沿岸系のガイタ音サンプル)、そしてコロンビア沿岸系のボーカル・チョップ(「aleteo!」「zapatea!」のシャウトが典型)である。編成はほぼ完全に電子で、ライブでは DJ セット形式が標準、時にコンガ/パーカッション奏者が加わる。19世紀キューバのグアラチャ(son 系の伝統形式)とは名前を共有するだけで音楽的には全く別物 — こちらは Adalberto Santiago 世代の son montuno の系譜、いっぽう2010年代の guaracha electrónica はコロンビア電子ダンスの系譜で、両者を混同しないことが基本的な区別。同義語として「aleteo(はためき)」「zapateo(足踏み)」が現地DJシーンで使われる。
生まれた背景
1990-2000年代のコロンビア沿岸(バランキージャ、カルタヘナ、サンタマルタ)ではチャンペータ(西アフリカ由来のリズム+コロンビア沿岸言語のボーカル)と、隣国ベネズエラ経由のトライバル・ハウス、そしてキューバ経由のティンバル音楽が並行して流通していた。2009-11年、メキシコの 3Ball MTY 一派が tribal guarachero(pre-Hispanic percussion + electro)を全米ラテン・チャートに届けたのが直接の先行者で、コロンビアの若手DJ(メデジンの DJ Anonimus、DJ Ómm、沿岸の Kevin Flórez)がこれをコロンビア沿岸の音楽語彙に翻訳する実践を始めた。2012年の Kevin Flórez『El Serrucho』が沿岸系のダンス層でヒットし、以降メデジン側の グアラチャ(エレクトロニカ) Music Group が2015-19年にアンダーグラウンド・パーティを核にジャンル化を進めた。パンデミック期(2020-21)の TikTok 拡散でスペイン、メキシコの若年層に届き、Yera、Nicky Bo、Beele らが第二世代を担った。
聴きどころ
Kevin Flórez『El Serrucho』(2012)ではチャンペータ的なガイタ音とアフリカ系パーカッションが電子ビートに接続されているのがまず聴ける — グアラチャ・エレクトロニカが「純ハウス」ではなく「コロンビア沿岸の身体性を持ったハウス」であることの明示。DJ Anonimus 系のトラック(2015-19)では tribal guarachero 由来のシンコペーション・パーカッションが4つ打ちキックの隙間を細かく埋めているのが特徴で、これがヨーロッパのミニマル・ハウスとの音的差異。Yera、Nicky Bo 以降(2020-)は TikTok リールの15秒フックに適した反復パターンとボーカル・チョップの位置が重視されており、汎ラテン EDM プレイリスト向けに音像がクリーンになっている。全曲を通じて、「aleteo(はためき)」の身体動作を想起させる素早いパーカッション連打が耳の指標になる。
発展
2015-19年、メデジンのアンダーグラウンド・パーティ(Cine Colombia 系、Colonia Belén 界隈)を主要な発生源として、DJ Anonimus と DJ Ómm がヨーロッパのアフター・アワー・シーン(バルセロナ、ベルリン)を含む越境ネットワークを構築、「Aleteo Music Group」がジャンル・レーベル化を進めた。2020年代のパンデミック期は TikTok の踊り動画を通じて南米域外(スペイン、メキシコ)の若年層に届き、Yera(女性DJ)、Nicky Bo、Beele(レゲトンからのクロスオーバー)らが次世代を担った。汎ラテンEDMの下位分岐として2023-24年時点でも Spotify Latin プレイリストの常連ジャンル。
出来事
- 2012: Kevin Flórez『El Serrucho』が沿岸系のダンス層で成立点
- 2015-19: DJ Anonimus、DJ Ómm のメデジン・シーン成立、Aleteo Music Group
- 2020-21: パンデミック期の TikTok 拡散、スペイン受容
- 2023-24: Spotify Latin プレイリスト常連ジャンル化
派生・影響
Guaracha House(スペイン側の派生)、Aleteo trap(2020年代のトラップ融合)、Chocolate Remix 系の LGBT クイア・パーティ・シーンとの相互流通。
音楽的特徴
楽器ドラムマシン、シンセ、サンプラー、ボーカル・チョップ、時にコンガ・パーカッション、ライブでは DJ セット
リズム130-135BPMの4つ打ちキックに、tribal guarachero 由来のシンコペーション・パーカッション、時に3+3+2 のクロス
代表アーティスト
- Kevin Flórez
- DJ Anonimus
- DJ Ómm
- Nicky Bo
- Yera
- Beele
代表曲
El Serrucho — Kevin Flórez (2012)
Aleteo Session — DJ Anonimus (2016)
Guaracha Deluxe — DJ Ómm (2018)
その後の代表曲
Aleteo Vibes — Yera (2021)
Guaracha 3.0 — Nicky Bo (2022)
No Tiene Sentido — Beele (2023)
日本との関係
日本での guaracha electrónica の認知は実質的にほぼ存在しない。2010年代の日本におけるコロンビア音楽受容は主にサルサ(Grupo Niche、Fruko y sus Tesos)とバジェナート(Carlos Vives)、そして2020年代の J Balvin/Karol G のレゲトン受容が中心で、コロンビア沿岸電子ダンスとしての guaracha electrónica は日本のラテン音楽コーナー(タワーレコード渋谷、HMV 新宿)にもほぼ入荷しない。数少ない例外は2020年代のスペイン語圏 EDM 系 DJ ミックスに含まれるトラック単位の露出で、独立ジャンルとしての認知は日本では未だに未確立。
初めて聴くなら
最初の一曲は Kevin Flórez『El Serrucho』(2012、3分)、コロンビア沿岸電子ダンスの起点として最も分かりやすい曲。次に DJ Anonimus『グアラチャ(エレクトロニカ) Session』(2016)でメデジン・アンダーグラウンド期の音、DJ Ómm『グアラチャ(エレクトロニカ) Deluxe』(2018)で欧州越境期の音、Yera『グアラチャ(エレクトロニカ) Vibes』(2021)で TikTok 世代の音へ。DJ ミックスとしては、グアラチャ(エレクトロニカ) Music Group の SoundCloud/Mixcloud にアップされる年次コンピレーションを推す。書籍としては Wayne Marshall『Sonic Coalitions: Global Music After レゲトン』(2020、当書に一章)がジャンルの学術的入門書。
豆知識
「guaracha」の語はもとキューバの son 系伝統形式を指すが、コロンビア沿岸の2010年代電子ダンス・シーンでは全く別の意味で使われ、両者は同じスペイン語話者間でも混同されがち。コロンビア側のシーンでは「aleteo」「zapateo」の同義語がより自称的に使われ、Wikipedia 等の英語圏の項目分けでも「guaracha (コロンビアn electronic music)」として区別されている。Beele(2020年代の若手)は主にレゲトン・シンガーとして知られるが、コロンビア沿岸のシーンとの相互客演を通じて guaracha electrónica のクロスオーバーを担う点で世代橋渡し役として位置づけられる。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- ラテン・カリブレゲトン・コロンビアーノ
