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ラテン・カリブ

バジェナート

Vallenato

バジェドゥパル / コロンビア / 南米 · 1880年〜

別名: Vallenato colombiano / Música vallenata

コロンビア・カリブ海岸の三本柱(アコーディオン、カハ、ガチャラカ)を核にした語りの音楽。

どんな音か

バジェナートコロンビア北部カリブ海岸のセサール県、特にバジェドゥパルの盆地で成立した歌い手主導の音楽で、編成は三点セットに絞られる。ドイツから船で入ったダイアトニックのボタン式アコーディオン、片面の小型太鼓カハ・バジェナータ、そして竹をこすって鳴らす細長い有溝打楽器ガチャラカだ。歌はスペイン語、テーマは恋、村の逸話、友人の死、政治的なメモがちに、シンガー=作詞家自身が語る形式が伝統的で、四つのリズム形式(パセオ、メレンゲバジェナート、プーヤ、ソン)を作品ごとに切り替えるのが規範だ。演奏の中心はアコーディオン奏者の即興的な装飾で、同じ譜面でも奏者が違えばまったく別の曲に聴こえる。

生まれた背景

19世紀後半から20世紀初頭、ドイツ商船経由でカリブ海岸に上陸したアコーディオンが、先住民由来のガチャラカとアフリカ系のカハと結びついて三点編成が固まった。初期は集落を回る行商歌手ジュグラーが農園の逸話を伝える口承ニュース媒体としての役割を持ち、1948年からバジェドゥパル(セサール県都)で毎年開催されるレジェンダ・バジェナータ祭が「大物アコーディオニスト(rey vallenato)」を選出する競演の頂点になった。1970年代にディオメデス・ディアスがロマンティックな歌唱様式を持ち込みバジェナートを全国的な大衆音楽に押し上げ、1993年カルロス・ビベスの『Clásicos de la Provincia』が国境を越えたクロスオーバー・ヒットとなった。

聴きどころ

まず三点編成の役割分担に耳を澄ませてほしい。アコーディオンが旋律とハーモニーを一手に引き受け、カハ・バジェナータが片面太鼓の粘りのある低音で拍を打ち、ガチャラカが竹を擦って鳴らす細かい16分音符で疾走感を作る。次にリズム形式の切り替えで、パセオ(4/4の物語調バラード)から入り、メレンゲバジェナート(6/8の跳ねる中速)、プーヤ(高速の6/8)、ソン(2/4の重い足取り)を作品の中で行き来する。ディオメデス・ディアスの歌唱を聴くと、フレーズの最後で声を微かに上に振り上げる癖があり、これがバジェナート特有の「泣き」の様式だ。カルロス・ビベスの1993年盤は伝統的な三点編成にエレキ・ベースとドラムを加えた「電化バジェナート」の完成形。

発展

1970年代にディオメデス・ディアスがロマンティックな歌唱様式を持ち込みバジェナートを全国的な大衆音楽に押し上げ、1993年カルロス・ビベスの『Clásicos de la Provincia』(伝統曲を電化リズム隊で再演)が国境を越えたクロスオーバー・ヒットとなり、バジェナートは南米/スペイン語圏全体の耳に届いた。ビベスの解釈を「純粋性の破壊」と非難する伝統派と「バジェナートを救った」と称える現代派の対立は、いまも祭の場で続いている。

出来事

  • 1948: Festival de la Leyenda Vallenata初開催
  • 1993: Carlos Vives『Clásicos de la Provincia』
  • 2013: Diomedes Díaz没(60万人が葬列)
  • 2015: UNESCO無形文化遺産登録

派生・影響

コロンビア・ロック(カルロス・ビベス経由)、レゲトン・コロンビアーノの一部曲(J Balvin, Silvestre Dangondとのコラボ)、Shakiraの初期作品にも痕跡。

音楽的特徴

楽器ダイアトニック・アコーディオン、カハ・バジェナータ、ガチャラカ、ボーカル

リズムパセオ(4/4のバラード)、メレンゲ・バジェナート(6/8)、プーヤ(高速の6/8)、ソン(2/4)の4形式

代表アーティスト

  • Alejo Duránコロンビア · 1935年〜1989
  • Rafael Escalonaコロンビア · 1943年〜2009
  • Los Gaiteros de San Jacintoコロンビア · 1954年〜
  • Diomedes Díazコロンビア · 1976年〜2013

代表曲・古典

代表曲・現在

日本との関係

日本での認知は極めて薄く、カルロス・ビベスの『La Gota Fría』(1993)がラテン音楽好きの一部に届いた程度が実情だ。2010年代以降、Shakira(バランキージャ出身)や、J Balvin、Karol Gら世界的なコロンビアレゲトン・スターの台頭に伴い、彼らが自作で引用する「アコーディオンのフレーズ」経由でバジェナートの音色そのものは日本のリスナーの耳に届き始めている。Karol GがBLACKPINKと共作した2023年の一連の楽曲でも、バジェナート的なアコーディオンのライン引用があり、この経路が日本での認知拡大の主戦線になっている。国内でバジェナートを本格的に演奏するグループはほぼ存在しない。

初めて聴くなら

最初はカルロス・ビベス『La Gota Fría』(1993、アルバム『Clásicos de la Provincia』所収)。伝統的な三点編成を電化したこの一曲がバジェナートの入り口として最も広く聴きやすい。次にディオメデス・ディアス『Los Caminos de la Vida』(1993)、伝統的な純度と歌い手の存在感が完璧に噛み合った代表作だ。アレホ・ドゥラン『Alicia Adorada』は最古典的な三点編成の音を伝える。夜、少し暗くした部屋でスピーカーで鳴らすと、カハの低音の粘りが体に伝わってくる。

豆知識

バジェナートは2015年UNESCO無形文化遺産に登録された。作家ガブリエル・ガルシア=マルケスは『百年の孤独』の登場人物の何人かをバジェナート歌手の実在人物からモデルにしており、彼は生前「私の小説は長編化した本物のバジェナート」と語っている。ディオメデス・ディアスの2013年12月22日の葬儀では、彼の故郷ラ・ハグア・デル・ピラールに60万人が集まったと現地紙は報じた。バジェドゥパル祭で選ばれた歴代の『Rey バジェナート』(バジェナート王)は初代アレホ・ドゥラン(1968)から現在まで50人を超える。

影響・派生で結ばれたジャンル

バジェナートを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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