ブルックリン・ドリル
2018年頃にPop Smoke、Sheff G、Sleepy Hallowらが確立した、UKドリルのスライドベースをニューヨーク的グルーヴに置き換えたドリル。
どんな音か
イギリスドリルの冷たさを、さらに荒く突き詰めたような音だ。ニューヨーク・ブルックリン発のドリル系ヒップホップで、テンポはBPM(1分あたりの拍数)で140〜150と速いが、拍を半分の間隔で取るため、体感は70〜75くらいのゆったりしたテンポに聞こえる。サウンドの軸は、シンセで作った重い低音と、ホラー映画のように暗い弦(シンセ・ストリングス)の響きにある。細かく刻むハイハット(チッチッと鳴る金属的なリズム)と、リズムの決まった位置にきっちり当てず、わざと少しずらして鳴らすスネア(小太鼓の音)——どちらもイギリスの原型から受け継いだ作法だ。声はほとんど加工されず、エコーもほぼかけず、左右に振らずに真ん中ではっきり聞かせる。ニューヨーク訛りで、囁くようにも吐き捨てるようにも聞こえる暗い語り口だ。歌詞のテーマはストリート暴力、ギャング抗争、ナイフや銃、警察、ブルックリンの貧困。
生まれた背景
ブルックリン・ドリルが形になったのは2016〜2017年。イギリスドリルの手法をニューヨークのドリル文脈へ移植した22Gz『Suburban』(2016)とSheff G『No Suburban』(2017)が下地を整え、Fivio ForeignやSleepy Hallowが地元で支えた。これを一気に主流へ引き上げたのが、Pop Smoke(本名Bashar Jackson)とロンドン拠点のプロデューサー808Meloだ。Pop Smoke『Welcome to the Party』(2019)、『Dior』(2019)が世界規模で大ヒットし、ジャンルを一躍世界の表舞台へ押し出した。2020年2月、Pop Smokeは20歳で銃撃され急逝する。シーンは大きな衝撃を受けたが、遺作アルバム『Shoot for the Stars, Aim for the Moon』が全米初登場1位を記録。現在はFivio Foreignらが中心となり、ニューヨークの主要ヒップホップ・サウンドとして続いている。
聴きどころ
音楽的特徴
楽器ドラムマシン、シンセ、808ベース
リズム140BPMハーフタイム、UKドリル系スライド・ベース
リズムを聴く
このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。
代表アーティスト
- Sheff G
- Sleepy Hallow
- Pop Smoke
代表曲
- No Suburban — Sheff G (2017)
- Dior — Pop Smoke (2019)
- Welcome to the Party — Pop Smoke (2019)
- Deep End Freestyle — Sleepy Hallow (2020)
- Mood Swings — Pop Smoke (2020)
日本との関係
BAD HOP、JP THE WAVY、Tohjiなど、日本のヒップホップ・アーティストはブルックリン・ドリルの語法を直接取り入れた楽曲を発表している。Pop Smokeの来日公演は実現しなかった(2020年2月に殺害された)。
初めて聴くなら
1曲だけ聴くなら、Pop Smoke『Welcome to the Party』(2019)。ジャンルのテンプレを決めた一曲だ。続けて『Dior』(2019)、そして没後最大のヒットとなった『For the Night』(2020、Lil Baby・DaBaby参加)や『What You Know Bout Love』(2020)へ。Fivio Foreign『Big Drip』(2019)もシーンを知る入口になる。
豆知識
事件直前まで、Pop Smoke自身のSNS投稿から自宅の場所が漏れていた。とりわけ、投稿したギフトの箱に貼られた配送ラベルに住所が写り込んでおり、これが強盗を自宅へ導いた直接の手がかりとされる。事件は2020年2月19日、ロサンゼルスのハリウッド・ヒルズの賃貸住宅で起きた。プロデューサー808MeloはロンドンのIlford出身で、イギリスドリルの感覚をPop Smokeのトラックに持ち込んだ立役者だった。
