ハワイアン・ファルセット
ハワイ独特の高音裏声歌唱。男性歌手の伝統。
どんな音か
ハワイアン・ファルセットは裏声(ファルセット)を意図的に多用する歌唱スタイルで、ハワイの男性歌手に特有の発声法だ。地声から裏声へ切り替えるとき、ほとんどのジャンルでは「つなぎ目」を滑らかに消そうとするが、ハワイアン・ファルセットでは逆にこの切り替えの「引っかかり」を美として活かす——地声と裏声の間に生じる短い音の割れや滑りがスタイルの核心だ。Gabby Pahinuiの「Hi'ilawe」(1965)ではスラックキー・ギター(オープンチューニングのギター)の穏やかな音色に乗せてこのファルセットの揺らぎが聴けて、ハワイの空気と声が一体になっている。イスラエル Kamakawiwoʻoleの「Pua ʻOlena」(1993)では大柄な体から出る柔らかい声と裏声の組み合わせが印象的。
生まれた背景
聴きどころ
Gabby Pahinuiの「Pauoa Liko Ka Lehua」(1972)を聴くとき、スラックキー・ギターの弦がゆっくり下から上にかき上げる音と、ファルセットが同じ速度で「落ちていく」瞬間がある。この二つの動きが交差するタイミングを拾えると、スラックキー+ファルセットの組み合わせの本質に触れられる。イスラエル Kamakawiwoʻoleの「White Sandy Beach」(1995)はテンポが遅く、裏声の「揺らぎ」が追いやすい。
発展
20世紀後半にデニス・パヴァオ・ライキー・カアパナ・ハワイ・ファルセット・コンテストの優勝者たちが伝統を継承し、ハワイアン・ルネサンス期に再評価された。年次のリチャード・ホアパイ・ファルセット・コンテストが頂点を競う場。
出来事
- 1900年代: ハワイアン音楽黄金期。
- 1928年: ジョーゼフ・ケクク・スティール・ギター発明。
- 1972年: ハワイアン・ルネサンス開始。
- 1991年: 第1回リチャード・ホアパイ・ファルセット・コンテスト。
- 2010年代: 若手ファルセット歌手の台頭。
派生・影響
ハワイ音楽全般の歌唱様式の中核、ナ・ホク・ハノハノ・アワード(ハワイ年次音楽賞)の中心ジャンル、現代世界のファルセット歌唱(R&B・スワンプ)との比較対象。
音楽的特徴
楽器声(主に男性ファルセット)、スラックキー・ギター、スティール・ギター、ウクレレ
リズムハイ・オー(地声と裏声の切り替え)、ゆったりした拍、ハワイ語詞章
代表アーティスト
- Gabby Pahinui
- Ledward Kaapana
- Israel Kamakawiwoʻole
代表曲
- Hi'ilawe — Gabby Pahinui (1965)
- Pauoa Liko Ka Lehua — Gabby Pahinui (1972)
- White Sandy Beach — Israel Kamakawiwoʻole (1995)
Pua ʻOlena — Israel Kamakawiwoʻole (1993)
Punahele — Ledward Kaapana (1995)
日本との関係
イスラエル Kamakawiwoʻoleの「Over the Rainbow/What a Wonderful World」は映画・テレビドラマのBGMとして世界中で使われ、日本でもCMや番組で流れてきた。ただしこれはファルセット歌唱の文化というより「癒し系のハワイアン」として消費されてきた側面が強く、ハワイアン・ファルセットというジャンルへの認識につながっていないことが多い。
初めて聴くなら
まずイスラエル Kamakawiwoʻoleの「White Sandy Beach」(1995)。声の温度感と裏声の入り方が分かったら、Gabby Pahinuiの「Hi'ilawe」(1965)で歴史的な録音の乾いた音質とスラックキー・ギターの質感を聴いてほしい。昼の日差しの中で窓を開けて聴くか、夜の静かな時間に聴くか、どちらでも合う音楽だ。
豆知識
スラックキー・ギター(ki hōʻalu)は弦のチューニングを「緩めた(slack)」オープンコードで奏でるハワイ独自の奏法で、ファルセット歌唱と組み合わさることで「ハワイ音楽」の固有の音を作り出す。Gabby Pahinuiはこのスラックキーを現代に復活させた人物として知られ、Ry CooderやWarren Zanesのような本土ギタリストも彼の演奏に強い影響を受けた。
