ラグタイム
19世紀末のアメリカ中西部で発達したピアノ音楽。右手が細かくシンコペーションするメロディを弾き、左手が一定のベースとコードを刻む、いわゆる「ラグ」の構造が特徴。
どんな音か
右手と左手がズレている、というのが一番わかりやすい説明かもしれない。左手は1拍目と3拍目にベース音、2拍目と4拍目に和音を規則正しく叩き続ける。その上で右手が、拍の「アタマ」をわざと外したメロディを弾く。この食い違いが軽快な弾み——「ラグ」——を生む。テンポはそれほど速くない。マーチ(行進曲)と同じ2/4拍子が多く、むしろゆっくり丁寧に弾かれることを作曲者が指定している曲もある。録音技術が発達する前の時代の音楽なので、初期はピアノロール(自動演奏ピアノ用の穿孔紙)や楽譜が主な流通手段だった。音の粒がひとつひとつ独立して聴こえる、打鍵の硬い質感はその時代のピアノの特性でもある。
生まれた背景
1890年代、ミズーリ州のセデリアやセントルイスといった中西部の都市に、南部から移住した黒人音楽家が集まっていた。彼らが酒場や社交場で演奏するなかで、アフリカ由来のリズム感覚とヨーロッパのダンス音楽(マーチ、ポルカ、ヨーロッパ舞曲)が混ざりあい、ラグタイムの形が定まっていった。スコット・ジョプリンが1899年にシートミュージックとして出版した「Maple Leaf Rag」は初年度に数万枚売れ、このジャンルを全国に知らしめた。流行の中心は1900年から1915年頃で、その後ジャズの台頭とともに主役の座を譲っていく。1970年代、映画『スティング』(1973年)でジョプリンの曲が使われたことで再評価の波が来た。
聴きどころ
まず左手だけを追う。ドン・パン・ドン・パンという一定のリズムが途切れずに続くはずだ。次に右手を聴く。左手の「ドン」の直後ではなく、その少し前か後にメロディが来ているのがわかる。この「ズレ」がラグタイムのすべてといってよい。ジョプリンの「Solace」(1909年)は3拍子系のリズムでほかより少しゆったりしており、シンコペーションの効き方も柔らかい。「The Entertainer」と聴き比べると、同じ作曲家でもキャラクターがかなり違うことがわかる。
音楽的特徴
楽器ピアノ
リズムシンコペーション、行進曲調
代表アーティスト
- Scott Joplin
- James Scott
- Joseph Lamb
代表曲
- Maple Leaf Rag — Scott Joplin (1899)
- The Entertainer — Scott Joplin (1902)
- Sensation Rag — Joseph Lamb (1908)
- Grace and Beauty — James Scott (1909)
- Solace — Scott Joplin (1909)
日本との関係
初めて聴くなら
「The Entertainer — Scott Joplin (1902)」から始めるのが一番とっつきやすい。明るく短く、何度も耳に引っかかるメロディ反復があり、ラグタイムの構造が直感的にわかる。もう少し感情的な揺れを求めるなら「Solace — Scott Joplin (1909)」。同じ作曲家がこれほど異なる質感を書いたのかと驚く。
豆知識
「ラグ(rag)」の語源は諸説あるが、「ぼろ布」ではなく、リズムを「ひっかく・ギザギザにする」という動詞的な意味だという説が有力とされる。スコット・ジョプリンは自分の最高傑作として歌劇「トゥリーモニシャ」を挙げていたが、生前にほとんど上演される機会がなかった。1974年、没後57年にしてピューリッツァー賞特別賞を受賞している。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- 宗教・霊歌ゴスペル
- ブルース・カントリーケイジャン音楽
- 伝統・民族ハワイアン・ファルセット
- 宗教・霊歌ペヨーテ・ソング(先住民教会聖歌)
- 宗教・霊歌ペンテコステ礼拝音楽
- 宗教・霊歌サザン・ゴスペル
- ポップハパハオレ
