WorldMusic

ロック・メタル

スペイン・ロック

Spanish Rock

マドリード / サラゴサ / ビルバオ / ナバラ / スペイン / 南欧 · 1961年〜

別名: Rock español / Rock en español

1984年前後のマドリード/サラゴサ/北スペイン発、Héroes del Silencio と Extremoduro が両極を成すハードなロックの系譜。

どんな音か

スペイン・ロックは、モビーダ・マドリレーニャのシンセ・ポップ寄りの明るさが一段落した1984年前後から、Héroes del Silencio(サラゴサ)、Extremoduro(エクストレマドゥーラ)、Marea(ナバラ)、Fito & Fitipaldis(ビルバオ)、Los Piratas(ビーゴ)が担った、より暗く、より重く、より詩的な歌詞のロックの総体を指す。編成は標準的なツイン・ギター+ベース+ドラム+ボーカル、時にキーボード。歌詞はスペイン語で、Héroes は象徴主義的な内面描写(『Entre Dos Tierras』の「Ni de un lado ni de otro / No estoy en ninguna parte」の「どちら側でもない、どこにも属していない」という宣言)、Extremoduro はロベ・イニエスタの下品と美文が同居する破壊的な詩(『So Payaso』は「So payaso, so mamón, so cabrón(こっちを見るなクソ道化)」で始まる)、Marea はクッチ・ロメロの北スペイン労働者街の日常を、それぞれ別方向に振り切った。同世代の英米ロック(U2、Nick Cave、Guns N' Roses)を耳で吸収しつつ、スペイン語の音韻に合わせて刻みと語り口を作り替えたのが共通点だ。

生まれた背景

先行するモビーダ・マドリレーニャがシンセとファッションを中心にした都市祝祭だったのに対し、スペイン・ロックはより地方色が強く、より書物的な歌詞を持って現れた。1984年、サラゴサの Enrique Bunbury(1967-、本名 Enrique Ortiz de Landázuri Izarduy) が15歳で Héroes del Silencio を結成した。彼らは1988年『El Mar No Cesa』でデビュー、1990年『Senderos de Traición』所収『Entre Dos Tierras』が全国区のヒットとなり、同時期にドイツ・スイス・オーストリアの独語圏で異例の成功を収めた。この独語圏成功はスペイン・ロック全体でも稀有で、彼らは1993年『El Espíritu del Vino』ツアーで独 Rockpalast などに出演、いまも独語圏で3世代の熱狂的ファン基盤を持つ。1987年、エクストレマドゥーラ地方プラセンシアで Robe Iniesta(1962-) 率いる Extremoduro が結成、1989年ローファイのカセットテープ・デモから始まり、1993年『¿Dónde Están Mis Amigos?』でロック詩と俗語罵倒を融合した独自路線を確立、俗に「rock transgresivo(逸脱ロック)」と呼ばれた。同時期、ナバラ州ベリオサルの Marea が1997年結成、2000年『Como el Viento del Este』でクッチ・ロメロの掠れ声と北スペイン労働者街のスラング詩を打ち出した。

聴きどころ

Héroes del Silencio『Entre Dos Tierras』(1990)のAメロで Bunbury が抑えた低い胸声で語り、サビで一気にファルセット寸前の高音へ切り替える二段構えを聴いてほしい。この抑揚の落差が、彼らがスペインより先にドイツ市場で大受けした理由の一つで、独語圏の Nick Cave / Depeche Mode の後継者としての位置を彼らが担った。Extremoduro『So Payaso』(1996)はロベ・イニエスタの下品な散文詩と、ハードロックのリフを重ねる異形の構成で、6-7分の長尺組曲構造が Extremoduro のアルバムの標準だ。彼らを聴く時は「1曲」ではなく「1組曲」の単位で聴くのが正しい。Marea『Como el Viento del Este』(2000) はクッチ・ロメロの徹底的にしゃがれたスペイン語詞に、アコーディオン混じりの北スペイン色を効かせた4-5分のミドル・テンポで、労働者街の日常を歌う姿勢は Extremoduro とは違う方向の切実さを持つ。Fito & Fitipaldis『Por la Boca Vive el Pez』(2006)はブルース・ロックの穏やかな骨格と Fito Cabrales の温かい声で、彼らがスペイン・ロックの最大の商業成功を得た理由が体感できる。

発展

1996年、Héroes del Silencio は東京ドーム公演を含む世界ツアーの直後、Bunbury のソロ志向によりバンドを解散、Bunbury はイベロアメリカ・シーンで巨大なソロ・アーティストとして活動を続けた。同年 Fito Cabrales が Platero y Tú から Fito & Fitipaldis を発足させ、2006年『Por la Boca Vive el Pez』でスペイン最大の商業ロック・スターとなった。ナバラ州ベリオサルの Marea は2000年『Como el Viento del Este』でクッチ・ロメロのしゃがれ声とバスク=ナバラ的なアコーディオン混じりのアレンジを打ち出した。北西部ガリシアの Los Piratas はイバン・フェレイロの詩性で、後に彼のソロ活動を経てスペイン・インディーの源流にもなった。

出来事

  • 1984: Héroes del Silencio 結成
  • 1987: Extremoduro 結成
  • 1990: Héroes del Silencio『Senderos de Traición』
  • 1993: Extremoduro『¿Dónde Están Mis Amigos?』
  • 1996: Héroes del Silencio 解散、Fito & Fitipaldis 結成
  • 2000: Marea『Como el Viento del Este』
  • 2006: Fito & Fitipaldis『Por la Boca Vive el Pez』

派生・影響

1990年代のスペイン・パンク/ハードコア(Ska-P、Boikot)や、後のスペイン・インディー(Vetusta Morla、Iván Ferreiro ソロ)への直接の橋渡し。

音楽的特徴

楽器エレキギター(ツイン・リード多用)、エレキベース、ドラム、キーボード、時にハーモニカとサックス

リズムスタンダードなロック4/4、パワーバラードの3/4、Extremoduro の変拍子ロック組曲、Marea のワルツ気味の跳ね

代表アーティスト

  • Héroes del Silencioスペイン · 1984年〜1996
  • Extremoduroスペイン · 1987年〜2020
  • Mareaスペイン · 1997年〜2013
  • Fito & Fitipaldisスペイン · 1998年〜

代表曲・古典

日本との関係

スペイン・ロック日本での認知は英米ロックほど広くない。Héroes del Silencio は1996年の解散前に東京ドーム公演の予定があったが、Bunbury の疲弊で中止となり、日本市場を大きく開拓せずに終わった。日本の音楽ジャーナリズムでの体系的な紹介はほぼなく、日本人リスナーは主に在日スペイン人コミュニティか、留学経験のあるファン、あるいは Spotify のスペイン語圏プレイリスト経由でこの世代に辿り着く。Extremoduro の日本語での紹介はさらに希少で、彼らの下品と美文が同居する詩は翻訳の壁が大きい。Enrique Bunbury のソロは Latin Grammy 系のプロモーションで散発的に日本のインディーメディアに登場したが、大衆的認知には至っていない。逆に日本のロック・ファンでスペイン語圏音楽に興味のある層(主に南米ロック経由)にとって、Héroes と Extremoduro は「発見の対象」として静かに続いている。

初めて聴くなら

Héroes del Silencio『Entre Dos Tierras』(1990)、これがスペイン・ロックの一番分かりやすい入り口だ。アルバム『Senderos de Traición』(1990)全編で Bunbury 期の暗い象徴主義が味わえる。Extremoduro は『Agila』(1996)所収の『So Payaso』から入って、その後『La Ley Innata』(2008)の組曲構造まで進むと彼らの独自性が分かる。Marea『Como el Viento del Este』(2000)、Fito & Fitipaldis『Por la Boca Vive el Pez』(2006)は聴きやすい入り口。深夜、車の中で、大音量で聴くのがこのジャンルには最も合う。歌詞の意味が分からなくても、Bunbury の抑揚と Robe の詩の温度は体に届く。

豆知識

Enrique Bunbury の芸名「Bunbury」は英作家 Oscar Wilde の戯曲『The Importance of Being Earnest』(1895) に登場する架空の人物「Bunbury」から取られており、10代の彼が英文学好きだった痕跡が名前に残っている。Héroes del Silencio は1996年解散後、2007年に一度限りの世界再結成ツアーを敢行、南米・ヨーロッパ・アメリカ合衆国で通算200万人を動員したがアジア公演は組まれなかった。Extremoduro のロベ・イニエスタは2020年にバンドを終焉させ、以後ソロ Robe 名義で活動を続けている。Marea の『Como el Viento del Este』はナバラ州の東風(バスク・ピレネー方面から吹く冷たい風)が北スペイン労働者街を横切る情景で、地元では気象条件と情感の両方に読める二重意味を持つ表題だ。

影響・派生で結ばれたジャンル

スペイン・ロックを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

スペイン・ロック の系譜全体図(多段)を見る

同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

スペイン · 1961年前後 (±25年)