カッワーリー
南アジアのスーフィー的礼拝歌。長尺で恍惚へ高まる構成が特徴。
どんな音か
南アジア(パキスタン・北インド)のスーフィー(イスラム神秘主義)信者が、聖者廟で集団で歌う宗教歌。演奏は、ハーモニウム(ふいご式の手風琴)とタブラ(2個1組の手太鼓)が土台をつくり、通例6〜10人前後の男性合唱が手拍子で拍を刻む。その上でリード歌手が即興で旋律を長く伸ばし、節回しに飾りを加えていく。一篇は10〜40分の長尺で、後半へ向けてテンポと熱量が増し、歌い手も聴き手も音楽に没入していく。最終的にはトランスに近い忘我の境地——スーフィズムで「ハール」と呼ばれる状態——へと運ばれていくことを目指す。詩はウルドゥー語、パンジャブ語、ペルシア語が混ざり、「恋人」「酒」「酔い」といった世俗の語をそのまま神への陶酔として歌い、人間への愛と神への愛の境界をあえてぼかす。聴きどころは、この「恋人=神」「酒=神への陶酔」という二重性で、それを知って聴くと印象が一変する。
生まれた背景
13世紀デリーのスーフィー詩人アミール・フスローが、ペルシア・アラビア・トルコ・インドの音楽伝統を結びつけたのが起点とされる。以後長くスーフィー教団の儀礼音楽であり続け、とくにデリーのニザームッディーン廟で歌い継がれてきた。1964年に父ファテー・アリー・ハーンを亡くしたのち一座に加わり、1971年に叔父ムバーラク・アリー・ハーンの死で一座を率いるようになったヌスラット・ファテー・アリー・ハーンが、長さと儀礼の構造を保ったまま、コンサートで聴ける形に整えた。ピーター・ガブリエルが共同設立したWOMADフェスティバルでの1985年の公演を機に国際的にブレイクし、1980〜90年代のワールドミュージック・ブームに乗って世界へ広まった。彼の死後(1997)も甥のラハト・ファテー・アリー・ハーンらが伝統を継いでいる。
聴きどころ
曲の冒頭3〜5分は静かなハーモニウムの導入とリード歌手の探り合いで、まだ拍がはっきりしない。タブラが入ってから手拍子が加わり、リード歌手と合唱の掛け合いが始まる。同じ詩のフレーズを、少しずつ装飾を変えながら何度も繰り返す。その積み重ねで聴き手の感覚が次第に変化していく。途中で離れず、一篇を通して身をゆだねたい。
リズムを聴く
このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。
代表アーティスト
- Sabri Brothers
- Nusrat Fateh Ali Khan
- Abida Parveen
- Rahat Fateh Ali Khan
- アムジャド・サブリー
代表曲
- Bhar Do Jholi Meri — Sabri Brothers (1975)
- Tajdar-e-Haram — Sabri Brothers (1980)
- Allah Hoo Allah Hoo — Nusrat Fateh Ali Khan (1985)
- Mast Qalandar — Nusrat Fateh Ali Khan (1989)
- Afreen Afreen — Rahat Fateh Ali Khan (1996)
日本との関係
ヌスラットは1990年代に来日公演を行い、坂本龍一が『The Last Temple』(1995)で共演している。ピーター・ガブリエルのRealWorldレーベル経由で日本にも紹介され、世界音楽ファンの間で一定の支持を得ている。一般的な認知は薄いが、廃墟系YouTubeチャンネルやチルアウト・プレイリストで再発見される動きはある。
初めて聴くなら
短い導入は表題曲『Mustt Mustt』(Real World、1990)。マッシヴ・アタックによるリミックスでイギリスのクラブヒットになった一曲だ。全体像を味わうなら、ヌスラット・ファテー・アリー・ハーン『Allah Hoo Allah Hoo』。静かな導入部(アーラープ)から熱を帯びた頂点へ向かう構造の典型で、40分近くに及ぶ版もある。より儀礼に近い響きを聴きたいなら、伝統スタイルの代表格サブリー・ブラザーズ『Ya Habib』がよい。
