ヒンドゥスターニー古典
北インドの古典音楽。ラーガとターラを基盤に即興演奏を展開する。
どんな音か
北インド・パキスタンの古典音楽。コンサートは2〜4時間と長く、1曲を60〜90分かけて演奏することもある。声楽(ドゥルパド、カヤール、トゥムリ)と器楽(シタール、サロード、バンスリ(竹製の横笛)、サーランギ、タブラ)が中心だ。楽曲は「ラーガ」(旋法。数百種類あるとされる)と「ターラ」(リズムの周期)を組み合わせて成り立つ。楽譜は旋律の骨格だけを示し、肉付けは奏者の即興にゆだねられる。演奏の間じゅう低く鳴り続けるタンプーラのドローン(持続音)が、音楽全体を支えている。歌詞にはサンスクリット語、ヒンディー語、ウルドゥー語、ペルシア語が用いられる。歌われるのは神への讃歌から恋の歌、自然や季節のうつろいまで幅広い。
生まれた背景
起源は古代インドのヴェーダ時代(紀元前1500〜500)のサーマ・ヴェーダ詠唱にさかのぼるとされる。中世(13〜16世紀)に北インドを治めたイスラム王朝の宮廷で、ペルシアやアラブの文化を取り込みながら現代の形に発展した。デリー・スルタン朝やムガル帝国がその舞台である。13世紀後半から14世紀初頭に活躍した音楽家アミール・ホスローはこの時代を代表する革新者で、伝説ではシタールやタブラを考案したとも伝えられる。ただし両楽器が今の形になるのは数百年後であり、これは後の時代に作られた言い伝えと見られている。やがて北インド系が「ヒンドゥスターニー」、南インド系が「カルナーティック」と分かれ、各地にガラーナ(流派)が生まれた。20世紀には、シタールのラヴィ・シャンカール、タブラのザキール・フセイン、サロードのアリ・アクバル・カーンらが、この音楽を世界へ広めた。1960年代後半、ジョージ・ハリスン(ビートルズ)がシャンカールに師事したことは、西洋ロックがインド音楽に目を向ける大きなきっかけにもなった。
聴きどころ
即興こそがこの音楽の核心だ。だから同じラーガでも奏者ごとにまるで別物に聞こえる。冒頭の「アーラープ」(フリー・リズムの即興、5〜30分)で、奏者はラーガの音域全体をゆっくり探っていく。続く「ジョール」では、ドローンの上に少しずつ脈動が生まれてくる。やがて「ジャーラー」で高速の連打へと駆け上がり、ここで一気に体が前のめりになる。ここまではタブラが入らず、旋律楽器だけで進む。やがてタブラ(太鼓)が加わると、決まった拍数のリズム周期(ターラ)を刻みはじめる。シタールの駒(ブリッジ)が生むビーンという独特の倍音は「ジュワリ」と呼ばれる。ほかにもバンスリの息遣いや、声楽のメリスマ(一つの音節を細かく揺らしながら歌う技法)に耳を澄ませたい。
音楽的特徴
楽器シタール、サロード、タブラ、サーランギー、声
リズムを聴く
このジャンルを特徴づける代表的なリズムパターン。再生ボタンでループ再生し、下のリズム譜で今どの拍が鳴っているかを確認できます。
代表アーティスト
- Ali Akbar Khan
- ウスタード・ビスミッラー・カーン
- Ravi Shankar
- Bhimsen Joshi
- シヴクマール・シャルマ
- シャヒード・パルヴェーズ
代表曲
- Raga Jog — Ravi Shankar (1957)
- Raga Marwa — Ali Akbar Khan (1965)
- Raga Sindhu Bhairavi — Ravi Shankar (1972)
- Raga Bhimpalasi — Bhimsen Joshi (1985)
- Raga Yaman — Ali Akbar Khan (1970)
日本との関係
初めて聴くなら
1枚だけ聴くなら、Ravi Shankar『The Sounds of インド』(1957)。もともと西洋の聴き手に向けて解説しながら録音された一枚なので、最初の一歩に最適だ。より深い器楽体験ならAli Akbar Khan『Morning and Evening Ragas』、リズムの妙を味わうならザキール・フセインのタブラ独奏。声で聴きたいならBhimsen Joshi『Raga Miyan ki Todi』。
豆知識
ラヴィ・シャンカール(1920〜2012)は、娘のノラ・ジョーンズ(アメリカ合衆国の歌手)とアヌーシュカ・シャンカール(現代のシタール奏者)という、いずれも実力で名を成した2人の音楽家を育てた。1967年のモントレー・ポップ・フェスティバルで、シャンカールは日曜午後の長尺のソロ演奏で聴衆を魅了した。ジミ・ヘンドリックスがギターを燃やしたのと同じ舞台である。これはヒンドゥスターニー音楽が世界の大衆文化に入り込んだ瞬間として、しばしば語られる。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- 宗教・霊歌バジャン
