伝統・民族

ウルドゥー・インディー

Urdu Indie Pop

パキスタン / 南アジア · 2018年〜

パキスタンのZ世代インディーポップ。Abdul Hannan、Hasan Raheem、Talal Qureshiらがbedroom-pop路線を確立。

どんな音か

ベッドルームで作られた音そのままに、ローファイなドラムマシン、軽く歪んだギター、淡いシンセパッドが重なる。テンポは70〜95BPMの中速域が中心で、ボーカルは囁くようなウルドゥー語と英語のコードスイッチ。歌詞は失恋、孤独、カラチやラホールの夜の街路、SNS疲れなど、Z世代の私小説的なトピックが多い。R&B、ベッドルームポップ、ローファイヒップホップを下敷きにしているが、ウルドゥー語特有の長い母音と韻が乗ることで独特の浮遊感が生まれている。

生まれた背景

舞台はパキスタンの大都市カラチとラホール。2010年代までパキスタン音楽といえば、テレビ番組『Coke Studio』が提示するスーフィー系の壮大なライブセッションが代名詞だった。それを上書きしたのが、コロナ禍に自宅でLogicやFL Studioを開いた20代前半の若者たち。Spotifyがパキスタンで正式展開したのが2021年、ちょうどこの世代がSoundCloudやYouTubeで自前リリースを始めた時期と重なる。テレビでもメジャーレーベルでもなく、Instagramのストーリーから人気が広がる。

聴きどころ

ウルドゥー語の歌詞のリズム感に注目してほしい。ペルシア語起源の柔らかい子音と、英語のスラングが同じ一行に混ざる独特の言語感覚。プロダクション面では、わざとマイクの距離を遠くしたり、テープのヒスノイズを残したり、完璧に磨かない美学が徹底されている。Hasan Raheemの楽曲ではドラムが時々わざと走るし、Abdul Hannanの曲ではギターのピッキングノイズがそのまま録音されている。この「未完成さ」を楽しめるかが鍵。

代表アーティスト

  • Talha Anjumパキスタン · 2014年〜
  • Abdul Hannanパキスタン · 2020年〜
  • Hasan Raheemパキスタン · 2020年〜

代表曲

日本との関係

日本ではほぼ無名だが、東京・新大久保や名古屋のパキスタン人コミュニティで共有されており、ハラルフードレストランのBGMで耳にすることがある。サウンド的にはシティポップリバイバルやyama、なとり、藤井風あたりのベッドルーム感覚と通じるところがあり、日本のSpotifyリスナーが「アジアのチル系」プレイリスト経由でAbdul Hannanに辿り着くケースが少しずつ増えている。ボリウッドより親しみやすい入り口かもしれない。

初めて聴くなら

まずAbdul Hannan『Bichlana』。アコギの弾き語りに薄いシンセが重なるだけの構成で、ウルドゥー語が初めてでも旋律で泣ける。次にHasan Raheem『Aisay Kaisay』、これはダンサブルなビートで、夜の散歩や友人との集まりに合う。三曲目はYoung Stunners『Quaid e Azam Zindabad』、Talha Anjumの低音ラップが体に効く。深夜にイヤホンで聴く、もしくは雨の窓際でぼんやり流す、そんな時間に最も似合う。

豆知識

Hasan Raheemは医学生として大学に通いながら音楽を始めた、いわゆる「副業ミュージシャン」の典型例。パキスタンでは大手レーベルがほぼ機能していなかったため、彼らはSpotifyとYouTubeの収益、そしてInstagramのDMで来るブランド案件で食べている。Talha Anjumが所属するYoung Stunnersは、ウルドゥー語ラップを「Coke Studio以外で」成立させた最初のグループの一つ。彼らの台頭で、パキスタン英語学校の生徒たちが「英語で歌わなくていい」と気づいた、と語る評論家もいる。

影響・派生で結ばれたジャンル

ウルドゥー・インディーを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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