マッシュアップ
2000年代初頭、複数の既存楽曲を重ねて再構築するDJ/プロデューサー文化。
どんな音か
マッシュアップは二つ以上の既存楽曲を重ね合わせて一つの曲に仕立てる。最も一般的な手法は、あるポップ曲のアカペラ(ヴォーカルトラックだけ)と別の曲のインストゥルメンタル(演奏トラックだけ)を同じキーとテンポに揃えてミックスすること。うまくいくと、もとの二曲が全く違うジャンルであっても「最初からそう作られていた」ように聴こえる瞬間がある。Girl Talk(グリル・トーク)の「Feed the Animals」(2008)は一曲の中に300以上のサンプルが含まれているとされ、2〜4小節ごとに素材が入れ替わる。Danger Mouse「The Grey Album」(2004)はJay-Zのア・カペラ・アルバム「The Black Album」をビートルズ「ホワイト・アルバム」のサンプルの上に乗せた。
生まれた背景
2001年ごろ、デジタルオーディオワークステーション(DAW)が個人でも扱える価格になり、家庭のパソコンで高品質な音声編集ができるようになった。The Avalanches「Since I Left You」(2000)は約3,500枚のレコードからサンプルしたと報告されており、マッシュアップではなくサンプリングコラージュだが、既存音源を素材として再構築するという方向性でマッシュアップ文化と同時代にある。Danger Mouse「The Grey Album」(2004)はEMIから違法配布停止を求められたが、抗議運動「Grey Tuesday」が起き、一日で100万ダウンロードを超えた。著作権をめぐる論争がマッシュアップを社会問題として可視化した。
聴きどころ
Girl Talk「Feed the Animals」では曲のつなぎ目を聴き続けてほしい。素材が切り替わる瞬間、前の素材がまだ耳に残っているうちに次が入ってくる。この「残像の重なり」が曲を前に進める推進力になっている。Danger Mouse「The Grey Album」では、ビートルズのサンプルがどこから来ているか知っていると、認識と音の「ずれ」が面白い。知らなくてもヒップホップとして成立している。
発展
2004年Danger Mouse『The Grey Album』が著作権論争を巻き起こし、2008年Girl Talk『Feed the Animals』で頂点を迎えた。
出来事
- 2001: Soulwax『2 Many DJs』 / 2004: 『The Grey Album』 / 2008: Girl Talk『Feed the Animals』
派生・影響
Plunderphonics、Bootleg、Vaporwave。
音楽的特徴
楽器DAW、サンプラー、ターンテーブル
リズム可変、複層サンプル
代表アーティスト
- The Avalanches
- Danger Mouse
- Girl Talk
代表曲
- Feed the Animals — Girl Talk (2008)
- Since I Left You — The Avalanches (2000)
Encore — Danger Mouse (2004)
Smells Like Booty — The Avalanches (2001)
The Grey Album — Danger Mouse (2004)
日本との関係
初めて聴くなら
Danger Mouse「The Grey Album」は無料で入手できるグレーゾーンの作品だが、文化的背景が明確で入口として優れている。まずJay-Zの「Encore」版と、ビートルズの「Glass Onion」を別々に聴いてから、「The Grey Album」の同曲を聴くと、素材の使い方が見えてくる。Girl Talk は聴き流しながら「これ何の曲?」と調べる楽しみがある。
