トルコ・インディー
1999年結成のDumanから、Adamlar、Ceylan Ertem、Kalbenへ至る、Beyoğlu周辺のオルタナ/インディー・ロック。
どんな音か
トルコ・インディーは、イスタンブール旧市街のBeyoğlu(ベヨウル)地区、特にIstiklal通り周辺のライブハウス(Babylon、Peyote、IF Performance Hall)を拠点に育った、1990年代末以降のトルコ語オルタナティブ・ロック/インディーの総体だ。Dumanの3ピース・グランジから、Adamlarの60-70年代アナドル・ロックへの参照、Kalbenのシンガーソングライター系ドリーム・ポップ、Ceylan Ertemのジャズ寄りアート・ポップまでを含む。編成は3-5人組が中心で、歌詞はほぼ全てトルコ語、時に70年代アナドル・ロックのアレンジ・フレーズを直接引用する。BPMは中庸(80-130)、リリースはCDと2010年代以降のBandcamp/Spotifyのハイブリッド。Turkish popの巨大産業から独立して、都市の若い聴衆に直接届く経路を作った点で、韓国や台湾のインディー・シーンと構造的に似ている。
生まれた背景
始点は1999年イスタンブール結成のDuman(Kaan Tangöze、Ari Barokas、Batuhan Mutlugil)で、Pearl Jam/Nirvanaを直接の参照点にした3ピース・グランジ編成が、当時のTurkish popの艶やかな仕上げに真っ向から対立する提案だった。2002年1stアルバム、2005年『Sarhoş』が若い世代の代弁曲となった。同じBeyoğluシーンからmor ve ötesi(1995結成、2008年Eurovision代表)、Model(2006結成)、その後Adamlar(2008結成、Cem Karaca/Barış Mançoへの明確な参照)、Kalben(2010年代前半、シンガーソングライター系)、Ceylan Ertem(元Reptaraデュオ、ソロで2011年頃から)が続いた。2013年5月のゲジ公園抗議(タクスィム広場)は、Beyoğluのライブハウス文化そのものが物理的な現場と重なった転機で、多くのインディー・アーティストが抗議に参加、DumanやAdamlarのライブ映像が街頭で再生された。
聴きどころ
Duman『Aman Aman』(2005)は3ピース・グランジのシンプルな編成で、Kaan Tangözeの掠れた地声とディストーション・ギターの粗さが直接ぶつかる。彼の歌唱はSezen Aksu的な艶やかさとは真逆で、Turkish popが排除した「粗さ」を復権させた声だ。Adamlar『Yol Yakınken Dön』(2016)は歌詞と旋律の両面でCem Karaca『Namus Belası』への引用が聴き取れる、アナドル・ロックへのオマージュ的な曲。Ceylan Ertem『Ah Öyle Bakma』(2018)はジャズ寄りのコード進行で、彼女のジャズ声楽出身の背景が顔を出す。Kalben『Sen Nerdesin』(2016)は逆にドリーム・ポップの柔らかいシンセ・パッドで、Sezen Aksu的な母語感覚を残しつつBjörk的な現代性を持ち込んだ。
発展
2013年5月のゲジ公園抗議(タクスィム広場)は、Beyoğluのライブハウス文化そのものが物理的な現場と重なった転機だった。多くのインディー・アーティストが抗議に参加、DumanやAdamlarのライブ映像が街頭で再生された。以降、政治的圧迫と経済的不安定化のなか、シーンは独立系レーベル(Bir Şey Yap Records、Radar Music)とBandcamp配信でサヴァイヴした。2020年代前半にはKalbenやCeylan Ertemがドイツ、オランダの在住トルコ系コミュニティへツアーを回すのが定着し、Turkish popの巨大産業とは別軸の国境横断が形になった。
出来事
- 1999: Duman結成
- 2002: Duman 1st
- 2005: Duman『Sarhoş』
- 2008: mor ve ötesi、EurovisionでTurkey代表
- 2013: ゲジ公園抗議とBeyoğluシーンの現場化
- 2016: Adamlar『Yol Yakınken Dön』
派生・影響
1970年代Anadolu Rock、90年代米オルタナ、UK Britpopの三点から派生。Anadolu psychedelic revival(Baba Zula、Altın Gün、Gaye Su Akyol)と兄弟関係。
音楽的特徴
楽器エレキ・ギター、ベース、ドラム、時にバーラマ(サズ)、キーボード、シンセ、コーラス
リズムロックの4/4、時に9/8アクサック、Kalben・Ceylan Ertem世代はジャズ寄りの3/4や5/4も
代表アーティスト
- Duman
- Adamlar
- Ceylan Ertem
- Kalben
- Gaye Su Akyol
代表曲・現在
Aman Aman — Duman (2005)
Sarhoş — Duman (2005)
Sen Nerdesin — Kalben (2016)
Yol Yakınken Dön — Adamlar (2016)
Ah Öyle Bakma — Ceylan Ertem (2018)
İkimizin Yerine — Adamlar (2019)
日本との関係
日本のインディー・リスナーで、Turkish indieを日常的に聴いている層はまだ極めて薄い。しかし2018年頃から、AdamlarのYouTube動画が日本のロック好きの間で偶発的にシェアされ始め、2019年のAltın Gün(アムステルダム拠点だが同シーン参照点)フジロック出演時に、日本のロック雑誌が周辺として言及した。トルコ料理店(新大久保、御徒町)ではTurkish popが優先されるためインディーはほぼ流れない。Kalbenは2023年に東京・大阪でスモール・ヴェニュー公演を行い、在日トルコ人コミュニティ+日本のインディー好き数十人を集めた。日本での認知は今のところ、この程度が上限だ。
初めて聴くなら
豆知識
Beyoğluのライブハウスの多くは2013年ゲジ公園抗議、続く2016年クーデター未遂後の非常事態宣言下で経営難に陥り、いくつかは閉店した。Babylon(1999年開業のBeyoğluの中心ヴェニュー)は2016年に本来の場所から移転を余儀なくされている。DumanのKaan Tangözeはトルコの元プロサッカー選手Şener Şen(俳優)の遠縁で、この経歴がキャリア初期にメディアで取り上げられた。Adamlarのバンド名(トルコ語で「男たち」)は結成当時「気の抜けた自意識過剰さを揶揄する自嘲」だったと本人が語っている。Ceylan Ertemはトルコの著名なジャズ・シンガーIlhan Erşahin(NY拠点のトルコ系)の姪で、彼女のジャズ・キャリアはこの血縁を通じてNYジャズ・シーンとも直接繋がっている。
影響・派生で結ばれたジャンル
同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル
- ポップトルコ90年代ポップ
