アナドル・サイケデリック・リバイバル
1990年代末のBaba Zula、2010年代のGaye Su Akyol、Altın Günが1960-70年代アナドル・ロックを再パッケージした国際的リバイバル。
どんな音か
アナドル・サイケデリック・リバイバルは、Baba Zula(1996年 イスタンブール結成)を早期の先駆に、2010年代のGaye Su Akyol(イスタンブール)とAltın Gün(2016年 アムステルダム結成)を柱にした、Cem Karaca/Barış Manço/Erkin Koray/Selda Bağcan世代のレパートリーと美学を現代のインディー/ワールド・ミュージック文脈で再演/再解釈するムーブメントを指す。編成は電化バーラマ(サズ)、ファズ・ギター、ハモンド・オルガンやMoogシンセ、ダルブッカ(逆さ杯型ドラム)にドラム・キット、時にドイツのクラウトロック由来のモーターリック・ビート、フリー・ジャズ由来の即興ホーンまで含む。歌詞は既存のアナトリア民謡や1970年代アナドル・ロック曲のカバー/翻案が中心で、Altın Günのレパートリーはほぼ全てSelda Bağcan、Erkin Koray、Neşet Ertaşらの原曲だ。録音はモノラル寄りのヴィンテージ質感を敢えて作る、Sublime Frequencies/Finders Keepersの再発カルチャーと直接接続した美学を持つ。
生まれた背景
起点はBaba Zulaで、監督ムラット・エルテルとメンバーのMurat ErtelがGypsy Percussionsからの分派として1996年に結成、電化サズと即興、ダブ処理を軸にBaba Zulaは1970年代アナドル・ロック的想像力を1990年代のクラブ音楽言語に翻訳した。Sublime Frequenciesレーベル(米ワシントン州)からのリイシューが2000年代半ばに欧米のクレイト・ディガー層を掴んだ結果、Erkin Koray、Mustafa Özkent、Moğollar、Selda Bağcanのアナログ盤の再発が2007-2010年に集中的に行われ、それが2010年代のリバイバル母胎を作った。決定的な瞬間は2016年、アムステルダム在住のオランダ人ベース奏者Jasper Verhulstが「1970年代トルコ・ロックだけを演奏するバンド」募集広告をFacebookに掲載、実際に応募したトルコ系ディアスポラ(Merve Daşdemir、Erdinç Ecevit Yıldız)と共にAltın Gün(直訳:黄金の日)を結成したことだった。2018年1st『On』、2019年2nd『Gece』(米グラミー最優秀ワールド・ミュージック・アルバム部門ノミネート)、2021年『Yol』の三作でリバイバルの国際的な顔となった。同時期のイスタンブールではGaye Su Akyol(1985年生、社会人類学修士)が2016年『Hologram İmparatorluğu』、2018年『İstikrarlı Hayal Hakikattir』でジャンル呼称としての『アナドル・サイケデリック・リバイバル Rock』を確立した。
聴きどころ
Altın Gün『Bakırköy'ün Yolları』(2018)を聴くと、原曲(Selda Bağcan)のドライで抗議的なテンションが、モーターリックなドラムと湿ったMoogシンセに置き換わり、まるでクラウトロックとアナトリア民謡の合流点になっているのが分かる。編成は6人組でギターとサズが対等に前に出て、ボーカルはトルコ語ネイティブのMerve Daşdemirが担当。Gaye Su Akyol『İstikrarlı Hayal Hakikattir』(2018)は逆に、彼女の低音の朗誦的な歌唱を主軸に、ヴィンテージ・シンセと電化サズが背後で漂う構造で、Cem Karacaの語り歌唱の現代版と見做せる。Baba Zula『Abdülcanbaz』(2001)は即興ダブ処理が明確で、電化サズがループに沈み込みながら断片的に浮上する、より実験的な聴き味。
発展
決定的な瞬間は2016年、アムステルダム在住のオランダ人ベース奏者Jasper Verhulstが「1970年代トルコ・ロックだけを演奏するバンド」募集広告をFacebookに掲載、Craigslistではなく実際に応募したトルコ系ディアスポラ(Merve Daşdemir、Erdinç Ecevit Yıldız)と共にAltın Gün(直訳:黄金の日)を結成したことだった。2018年1st『On』、2019年2nd『Gece』(米グラミー最優秀ワールド・ミュージック・アルバム部門ノミネート)、2021年『Yol』の三作でリバイバルの国際的な顔となった。同時期のイスタンブールではGaye Su Akyol(1985年生、社会人類学修士)が2016年『Hologram İmparatorluğu』、2018年『İstikrarlı Hayal Hakikattir』でジャンル呼称としての『Neo-Anadolu Rock』を確立した。
出来事
- 1996: Baba Zula結成
- 2006-10: Erkin Koray、Selda Bağcanリイシュー集中期
- 2016: Altın Gün結成、Gaye Su Akyol『Hologram İmparatorluğu』
- 2019: Altın Gün『Gece』グラミーノミネート
- 2019: Altın Gün Fuji Rock出演
派生・影響
1960-70年代Anadolu Rockの直接の子孫。Turkish indieと兄弟関係、Krautrock/Psych rock全般の系譜にも接続。
音楽的特徴
楽器電化バーラマ、ファズ・ギター、ハモンド・オルガン、Moogシンセ、ダルブッカ、ドラム、時にダーヴル、ズルナ、ベース、ボーカル
リズム1970年代アナドル・ロックの4/4と9/8アクサックの再現、Altın Günに顕著なクラウトロック由来のモーターリック・ビート
代表アーティスト
- Baba Zula
- Gaye Su Akyol
- Altın Gün
代表曲・古典
Abdülcanbaz — Baba Zula (2001)
代表曲・現在
Bakırköy'ün Yolları — Altın Gün (2018)
İstikrarlı Hayal Hakikattir — Gaye Su Akyol (2018)
Yolla — Altın Gün (2019)
Anadolu Ejderi — Gaye Su Akyol (2022)
日本との関係
日本のリスナーとの接続は、このジャンルが最も強い。Altın Günは2019年フジロック・フェスティバル(Field of Heaven)に出演、その熱狂的な反応で日本のワールド/インディー・シーンに一気に認知された。同フェス出演を機に、日本のオンライン・レコード店(Big Love、Time Bomb、diskunion)がAltın Günの各作品の輸入盤を継続的に扱うようになった。Baba Zulaも日本人パーカッション奏者・坂田学と共演した記録があり、2000年代半ばから断続的に日本のインディー音楽ファンの一部が注目していた。Gaye Su Akyolは日本盤リリースはないが、彼女の楽曲はTokyo Vitalist Circle系のプレイリスト、および渋谷のカフェバー系のBGMとして間欠的に採用されている。
初めて聴くなら
最初はAltın Gün『Bakırköy'ün Yolları』(2018)。原曲のSelda Bağcan版と聴き比べると、リバイバルが「単なるカバー」ではなく「時代精神の翻訳」であることが明快に分かる。次にGaye Su Akyol『İstikrarlı Hayal Hakikattir』(2018)、彼女の低音朗誦とヴィンテージ・シンセの融合が体験できる。Baba Zulaは『Abdülcanbaz』(2001)から入ると、より実験的なダブ処理の側面が分かる。深夜、部屋を暗くしてスピーカーで聴くのがこのジャンルには合う。原曲の1970年代版と続けて聴くのが最良の楽しみ方だ。
豆知識
Altın Günのバンド名『Altın Gün』はNeşet Ertaşの1978年の曲『Altın Gün』からで、この命名自体がリバイバル世代の「元世代への直接的な敬意」を示している。Jasper Verhulstは元Jacco Gardnerのバンド・メンバーで、彼のトルコ・ロック傾倒は2010年代のトルコ旅行中にレコード店でErkin Korayのアナログ盤を発見したのが起点だと語っている。Gaye Su Akyolの父親は著名な画家Muzaffer Akyolで、彼女のアルバム・アートワークの多くは父親の絵画を使っている。Baba Zulaは1996年結成時にMurat Ertelがギリシャ人ダブ・プロデューサーMad Professor(ジャマイカ系英国人)と共演を望んでいたが、初共演は10年後の2006年アルバム『Duble Oryantal』でようやく実現した。
