バジャン
ヒンドゥー教の信愛(バクティ)詩を、共同体で歌う宗教歌唱伝統。
どんな音か
バジャンは参加する音楽だ。独唱者やグループが一節を歌い、会衆が同じフレーズを返す「コール・アンド・レスポンス」が基本の形で、繰り返しが何十回と続くうちにグループ全体が同じ息で歌うようになる。ハルモニウム(足踏み式の携帯オルガン)が和音を支え、タブラやムリダンガムが細かいリズムを刻み、シンバルのタールが表拍を明確に打つ。ボーカルは装飾音(ガマカ)を多用し、メロディーが一定の音に向かって滑り込んでいく動きが繰り返される。Anup Jalotaのような歌手はこの形を洗練したコンサート形式に持ち込んでおり、ライブ録音では会場全体が一緒に歌っている様子が収録されている。
生まれた背景
聴きどころ
Anup Jalotaの「Jai Jagdish Hare」のライブ録音では、彼のボーカルと会場の合唱がどのタイミングで同期するかを追う。特に繰り返しが重なるにつれて、個々の声が溶け合う瞬間がある。ハルモニウムの和音がどの程度西洋的な和音進行に従い、どこで逸脱するかも確認したい。「Hanuman Chalisa」は歌詞の朗唱速度が演奏ごとに大きく変わるため、速い版と遅い版を聴き比べると、テキストとリズムの関係がよくわかる。
発展
19世紀以降の宗教改革運動(アーリヤ・サマージ、ラーマクリシュナ・ミッション)とサティヤ・サーイー・ババら現代グルが世界的にバジャン文化を広め、家庭・寺院・集会で実践される。20世紀後半はクリシュナ意識協会(ハレ・クリシュナ運動)が西洋に紹介、現代キールタン文化の母胎となった。
出来事
- 16世紀: ミーラー・バーイー、トゥルシーダースのバクティ詩成立
- 1965: ハレ・クリシュナ運動が米国でバジャン普及
- 2012: 現代キールタン・ブームでヨガ文化と結合
派生・影響
現代キールタン、ヨガ・ミュージック、Bollywood宗教曲(『Hari Om』『Krishna Krishna』)、スピリチュアル・ジャズ(アリス・コルトレーン)など多岐にわたる派生。
音楽的特徴
楽器声(独唱・斉唱)、ハルモニウム、タブラ、ドーラク、マンジーラ、タンブーラ
リズムターラ循環、コール&レスポンス、地域語、繰り返し
代表アーティスト
- Anup Jalota
代表曲
- Aigiri Nandini
- Hanuman Chalisa
- Jai Jagdish Hare — Anup Jalota
日本との関係
初めて聴くなら
Anup Jalotaの「Jai Jagdish Hare」は最も聴きやすい入口の一つで、コール・アンド・レスポンスの構造が明快だ。「Hanuman Chalisa」はどのバージョンでも40の連句を持つ長い詩なので、まずは短いバージョンか一部だけ聴いてみる。「Aigiri Nandini」はより古典的な様式で、テンポ変化を含む演奏は一曲の中で密度が変わるのが面白い。
