宗教・霊歌

バジャン

Bhajan

インド / 南アジア · 1200年〜

ヒンドゥー教の信愛(バクティ)詩を、共同体で歌う宗教歌唱伝統。

どんな音か

バジャンは参加する音楽だ。独唱者やグループが一節を歌い、会衆が同じフレーズを返す「コール・アンド・レスポンス」が基本の形で、繰り返しが何十回と続くうちにグループ全体が同じ息で歌うようになる。ハルモニウム(足踏み式の携帯オルガン)が和音を支え、タブラやムリダンガムが細かいリズムを刻み、シンバルのタールが表拍を明確に打つ。ボーカルは装飾音(ガマカ)を多用し、メロディーが一定の音に向かって滑り込んでいく動きが繰り返される。Anup Jalotaのような歌手はこの形を洗練したコンサート形式に持ち込んでおり、ライブ録音では会場全体が一緒に歌っている様子が収録されている。

生まれた背景

バジャンの源流は8〜12世紀頃のバクティ(神への愛と帰依)運動にある。タミル地方の詩聖アールヴァール、カルナータカのカビール、マハーラーシュトラのトゥカラームなど各地の聖者詩人が神への愛を庶民の言語で歌にした。これがヒンディー語・テルグ語・マラーティー語・カンナダ語など各言語のバジャン伝統として結晶化した。「Hanuman Chalisa」はトゥルシーダースが16世紀に書いた詩がバジャンとして定着した例で、インド全土で最も広く歌われる宗教歌の一つだ。「Aigiri Nandini」はサンスクリット讃歌でより古い形の宗教歌唱に属する。

聴きどころ

Anup Jalotaの「Jai Jagdish Hare」のライブ録音では、彼のボーカルと会場の合唱がどのタイミングで同期するかを追う。特に繰り返しが重なるにつれて、個々の声が溶け合う瞬間がある。ハルモニウムの和音がどの程度西洋的な和音進行に従い、どこで逸脱するかも確認したい。「Hanuman Chalisa」は歌詞の朗唱速度が演奏ごとに大きく変わるため、速い版と遅い版を聴き比べると、テキストとリズムの関係がよくわかる。

発展

19世紀以降の宗教改革運動(アーリヤ・サマージ、ラーマクリシュナ・ミッション)とサティヤ・サーイー・ババら現代グルが世界的にバジャン文化を広め、家庭・寺院・集会で実践される。20世紀後半はクリシュナ意識協会(ハレ・クリシュナ運動)が西洋に紹介、現代キールタン文化の母胎となった。

出来事

  • 16世紀: ミーラー・バーイー、トゥルシーダースのバクティ詩成立
  • 1965: ハレ・クリシュナ運動が米国でバジャン普及
  • 2012: 現代キールタン・ブームでヨガ文化と結合

派生・影響

現代キールタン、ヨガ・ミュージック、Bollywood宗教曲(『Hari Om』『Krishna Krishna』)、スピリチュアル・ジャズ(アリス・コルトレーン)など多岐にわたる派生。

音楽的特徴

楽器声(独唱・斉唱)、ハルモニウム、タブラ、ドーラク、マンジーラ、タンブーラ

リズムターラ循環、コール&レスポンス、地域語、繰り返し

代表アーティスト

  • Anup Jalotaインド · 1974年〜

代表曲

日本との関係

日本ではヨガの普及とともにバジャンへの関心が高まった。ヨガスタジオや瞑想の場でキールタンバジャンの一形式)が行われるようになり、2010年代以降は日本語でバジャンを歌うグループも登場している。スピリチュアル系のイベントでインド人音楽家によるバジャンが演奏されることもある。宗教実践というより「音楽的な瞑想」として受け入れられている傾向がある。

初めて聴くなら

Anup Jalotaの「Jai Jagdish Hare」は最も聴きやすい入口の一つで、コール・アンド・レスポンスの構造が明快だ。「Hanuman Chalisa」はどのバージョンでも40の連句を持つ長い詩なので、まずは短いバージョンか一部だけ聴いてみる。「Aigiri Nandini」はより古典的な様式で、テンポ変化を含む演奏は一曲の中で密度が変わるのが面白い。

豆知識

「Hanuman Chalisa」の「Chalisa」はヒンディー語で「40」を意味し、40の連句からなる詩であることに由来する。この詩は1574年頃に書かれたとされるが、今日インドでは1日何億回と唱えられ、スマートフォンのアプリでも再生回数が計測されている。また、バジャンの伝統は聖者詩人の社会批評の側面も持っており、カビールのバジャンはカースト制度や形式的な宗教への批判を含む——400年以上経った現在も時代を超えた言葉として歌われている。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1200年代1500年代1930年代バジャンバジャンキールタンキールタンボリウッド音楽ボリウッド音楽凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
バジャンを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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同じ時期・同じ地域で生まれた他のジャンル

インド · 1200年前後 (±25年)

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