宗教・霊歌

ドゥルパド

Dhrupad

グワーリオル / インド / 南アジア · 1450年〜

北インド古典音楽最古層の声楽様式で、神への讃美詩を瞑想的に歌い上げる。

どんな音か

ドゥルパドの音は遅い。まず「アーラープ」と呼ばれる即興的な導入部が始まり、タンブーラ(4弦のドローン楽器)だけを伴奏に、歌い手がラーガの音階を一つずつ確かめるように歌い上げる。30分以上かけてアーラープが発展し、テンポは徐々に上がっていく。パクァワジュ(両面太鼓)が加わる「ダマール」や「ドゥルパド」の楽節に入ると、リズムと旋律が絡み始める。声は胸腔から出す深く太い響きで、マイクを通してもホールに満ちるような音量と倍音がある。装飾音は最小限で、長い音符が空気を振動させながら変化する様子が音楽の主役だ。GundechaブラザーズはMewatiガラーナ(流派)の様式を継承しており、二人の声が低音域でユニゾンになる瞬間が特に印象的。

生まれた背景

ドゥルパドは北インド古典音楽の最も古い声楽様式の一つで、15〜16世紀のグワーリヤル宮廷(現マッディヤ・プラデーシュ州)で理論的に体系化されたとされる。ムガル帝国アクバル大帝(在位1556〜1605年)の宮廷でタンセンが頂点を極め、神話的な名声を持つ伝説の演奏家として現在も語り継がれる。「ダガール・バーニー」「ノーハール・バーニー」など複数の流派(バーニー)があり、それぞれ声の使い方や即興の方法論が異なる。1960〜70年代にジャジア・フセイン・ダガール(Dagar Brothers)がドゥルパドを欧米にも紹介し、世界的な古楽・瞑想音楽ブームとも重なって国際的な聴衆を獲得した。

聴きどころ

アーラープの最初の数分、声が「サ(主音)」に向かって何度も戻ってくる引力を確認する。その都度少し離れた音程に踏み込んでは戻る、という往復がラーガの「形」を作っていく。Gundecha Brothersの『Raga Yaman: Alap and Dhamar』(2000年)ではアーラープが十数分続いてからダマールへと移行するが、その移行の瞬間にリズムが生まれる「産まれる感覚」を体験してほしい。音量は低くても聴けるが、倍音の豊かさを感じるには中程度以上の音量が必要。

発展

16世紀ターンセン以降ムガル宮廷音楽の中核となり、4つのバーニー(ガウディヤ・カンダール・ナウハール・ダーガル)に分流した。19世紀以降ダーガル・バーニーの伝承家系が中心となり、20世紀のダーガル兄弟、ザキル・フセインの父アッラー・ラカ、グンデチャ兄弟らが世界的に演奏した。

出来事

  • 15世紀: グワーリオル宮廷で体系化
  • 1556: アクバル帝、ターンセンを宮廷音楽家任命
  • 1968: ダーガル兄弟欧州公演で世界に紹介
  • 2013: ドゥルパド・サンスティ国際養成校開設(ボパール)

派生・影響

カヤール、トゥムリ等北インド古典声楽全体の祖型、近年のミニマル音楽・現代音楽(テリー・ライリー、メレディス・モンクら)に倍音発声の影響を与えた。

音楽的特徴

楽器声、タンブーラ、パカワジ

リズム長大なアーラープ、チャウタール拍節、低音重厚、倍音発声

代表アーティスト

  • Dagar Brothersインド · 1942年〜1990
  • Gundecha Brothersインド · 1985年〜2020

代表曲

日本との関係

インド古典音楽に関心を持つ日本人のなかでも、ドゥルパドを専門的に聴く層はかなり少ない。ヒンドゥスターニー音楽全般の中でも、即興が長く構造が分かりにくいため、入口として選ばれることは稀だ。ただしヨガや瞑想実践者のなかには、その瞑想的な長尺の展開に惹かれる人もいる。

初めて聴くなら

Dagar Brothersの『Raga Bhairav (Dagar Style)』(1968年)から。バイラヴ・ラーガは早朝に歌われる荘厳なラーガで、ドゥルパドの瞑想的な側面がよく現れている。30分以上あるが、最初の10分だけでも連続して聴くことで、この音楽が「静止」ではなく「超スローモーションの動き」であることが体感できる。

豆知識

タンセンにまつわる伝説は数多い。「深夜のラーガ(ラーガ・ディーパク)」を歌ったら蠟燭が自然に灯った、「雨季のラーガ(ミャン・マルハル)」を歌ったら雨が降ってきたというものが有名だ。ドゥルパドの楽器であるパクァワジュは横置きで両手で打つ太鼓で、テーブラー(現在の北インド古典音楽の主流打楽器)が普及する前はこちらが主流だった。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1200年代1450年代1700年代ドゥルパドドゥルパドヒンドゥスターニー古典ヒンドゥスターニー古典カヤールカヤール凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
ドゥルパドを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

ドゥルパド の系譜全体図(多段)を見る

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