ドゥルパド
北インド古典音楽最古層の声楽様式で、神への讃美詩を瞑想的に歌い上げる。
どんな音か
ドゥルパドの音は遅い。まず「アーラープ」と呼ばれる即興的な導入部が始まり、タンブーラ(4弦のドローン楽器)だけを伴奏に、歌い手がラーガの音階を一つずつ確かめるように歌い上げる。30分以上かけてアーラープが発展し、テンポは徐々に上がっていく。パクァワジュ(両面太鼓)が加わる「ダマール」や「ドゥルパド」の楽節に入ると、リズムと旋律が絡み始める。声は胸腔から出す深く太い響きで、マイクを通してもホールに満ちるような音量と倍音がある。装飾音は最小限で、長い音符が空気を振動させながら変化する様子が音楽の主役だ。GundechaブラザーズはMewatiガラーナ(流派)の様式を継承しており、二人の声が低音域でユニゾンになる瞬間が特に印象的。
生まれた背景
聴きどころ
アーラープの最初の数分、声が「サ(主音)」に向かって何度も戻ってくる引力を確認する。その都度少し離れた音程に踏み込んでは戻る、という往復がラーガの「形」を作っていく。Gundecha Brothersの『Raga Yaman: Alap and Dhamar』(2000年)ではアーラープが十数分続いてからダマールへと移行するが、その移行の瞬間にリズムが生まれる「産まれる感覚」を体験してほしい。音量は低くても聴けるが、倍音の豊かさを感じるには中程度以上の音量が必要。
発展
16世紀ターンセン以降ムガル宮廷音楽の中核となり、4つのバーニー(ガウディヤ・カンダール・ナウハール・ダーガル)に分流した。19世紀以降ダーガル・バーニーの伝承家系が中心となり、20世紀のダーガル兄弟、ザキル・フセインの父アッラー・ラカ、グンデチャ兄弟らが世界的に演奏した。
出来事
- 15世紀: グワーリオル宮廷で体系化
- 1556: アクバル帝、ターンセンを宮廷音楽家任命
- 1968: ダーガル兄弟欧州公演で世界に紹介
- 2013: ドゥルパド・サンスティ国際養成校開設(ボパール)
派生・影響
カヤール、トゥムリ等北インド古典声楽全体の祖型、近年のミニマル音楽・現代音楽(テリー・ライリー、メレディス・モンクら)に倍音発声の影響を与えた。
音楽的特徴
楽器声、タンブーラ、パカワジ
リズム長大なアーラープ、チャウタール拍節、低音重厚、倍音発声
代表アーティスト
- Dagar Brothers
- Gundecha Brothers
代表曲
- Raga Yaman Dhrupad — Dagar Brothers (1968)
Raga Bhairav (Dagar Style) — Dagar Brothers (1968)
Raga Bhairavi — Gundecha Brothers (1995)
Raga Yaman: Alap and Dhamar — Gundecha Brothers (2000)
日本との関係
初めて聴くなら
Dagar Brothersの『Raga Bhairav (Dagar Style)』(1968年)から。バイラヴ・ラーガは早朝に歌われる荘厳なラーガで、ドゥルパドの瞑想的な側面がよく現れている。30分以上あるが、最初の10分だけでも連続して聴くことで、この音楽が「静止」ではなく「超スローモーションの動き」であることが体感できる。
