ヴェーダ詠唱
ヒンドゥー教最古層の聖典ヴェーダを、口承で正確に伝える音声伝統。世界最古の音声芸術の一つ。
どんな音か
単旋律だが、厳密なリズムパターン(マーターァ)と音程規則に従う。低い基音から始まり、装飾的に上昇・下降する。鼻腔から響く音が多く、子音は明確に発音される。1000年以上変わらぬ音として、音響的な正確性が絶対的要件。
生まれた背景
インド亜大陸。紀元前1500年ごろ、インド・ヨーロッパ言語族の遊牧民が持ち込んだ聖典ヴェーダ。内容を完全に正確に口承で伝承することが宗教的義務になり、音声伝統として発展。ブラフミン階級による独占的継承が続いた。
聴きどころ
各音節のスティライズされたアクセント。リズムパターンの繰り返しと変化。母音と子音の分離の明確さ。装飾音(シラムパーラ)の微妙な挿入。ナサル化(鼻音化)の出現箇所。
発展
古代後期にシクシャー(音声学)・チャンダス(韻律学)が学問体系化し、中世以降は地域伝承(ナンブーディリ・タミル・マハーラーシュトラ等)に分かれた。ナンブーディリ・ブラフマンのサーマヴェーダ詠唱は最古の音響継承例とされる。20世紀以降は録音による保存と国際的研究(フリッツ・スターリらの音響学研究)が進み、2003年ユネスコ無形文化遺産登録された。
出来事
- 前1500頃: リグ・ヴェーダ口承開始
- 前500頃: ヴェーダ正典化
- 1900頃: モリッツ・ヴィンテルニッツらドイツ語インド学が記録開始
- 2003: ユネスコ無形文化遺産登録
派生・影響
インド古典音楽全体の旋法・拍節理論(ラーガ・ターラ)の起源とされ、後のドゥルパドや南インド・カルナーティック音楽にも痕跡を残す。
音楽的特徴
楽器独唱・斉唱(無伴奏)
リズム限定音高(3-7音)、厳格規則、サンスクリット、暗誦階層構造
代表アーティスト
- Nambudiri Veda Schools (Kerala)
代表曲
Sāmaveda Pātha — Nambudiri Veda Schools (Kerala)
日本との関係
アジア音楽研究の学術対象として、一部の大学や音楽研究機関で知られている。一般的には瞑想音楽やヨーガ愛好者の間で、動画サイトで視聴される程度。日本での実演機会は極めて限定的。
初めて聴くなら
ケーララ州ナンブディリ・ヴェーダ学派による『サーマヴェーダ・パーター』。1つの章を10〜15分聴く。静かで誰もいない場所で、目を閉じて聴くと、音そのものが思考を止める。
豆知識
ユネスコ無形文化遺産に2009年登録。世界最古の音声ドキュメンテーション体系。暗唱の正確さを証明する試験があり、合格には数年の厳密な修行が必要。4つのヴェーダのうち、サーマヴェーダは最も音楽的。
