古典

カヤール

Khayal

インド / 南アジア · 1700年〜

別名: Khyal

ヒンドゥスターニー古典声楽の現代的主流様式。

どんな音か

ヒンドゥスターニー古典声楽の中心形式で、ラーガ(音階・旋律型の体系)に基づいた即興歌唱だ。まずゆっくりとした展開部(ヴィランビット・カヤール)で歌い手が音の範囲を探索し、後半に速いリズム(ドゥルト・カヤール)で技巧を見せる。伴奏はタブラー(リズム)とハルモニウムまたはサーランギー(弦楽)で、タンプーラが持続低音(ドローン)を保つ。声の装飾(ガマク、タン、ムルキ)は豊富で、即興の比率が高い。一度の演奏が20〜60分に及ぶこともある。

生まれた背景

カヤールはペルシア語で「思考・想像」を意味し、ムガル帝国(16〜18世紀)の宮廷で整備されたと言われる。以前の主流様式ドゥルパドが厳格な構造を持つのに対し、カヤールは詩的自由度と即興の余地が大きく、18〜19世紀に急速に広まった。各系統(ガラナ)がデリー・グワーリヤル・ジャイプル・キラナなど都市名を冠し、師匠から弟子へ秘伝的に継承されてきた。

聴きどころ

最初はラーガの「核音(ヴァーディ)」を探す。歌い手が何度も戻ってくる音がある——そこがラーガの重心だ。次に、タブラーの拍の周期(ティーン・タール16拍など)を数えながら、声がどこで拍に合わせてどこで外れるかを追う。キショリ・アモンカルやクマール・ガンダルヴァは、独自の解釈でラーガを歌うため、他の演奏家との比較が面白い。

発展

20世紀にはバーデー・グラーム・アリー・カーン(パティアラ)、アムジャド・アリー・カーン、クマール・ガンダルヴァ、ビーム・セーン・ジョーシー、キショリ・アモンカル、パンディット・ジャスラージらが世界的名声を得た。録音文化と全国コンサート・ツアーで普及し、現代もインド古典音楽の代表ジャンル。

出来事

  • 17世紀: サダーランガによる大成。
  • 19世紀: 主要ガラーナの確立。
  • 1953年: バーデー・グラーム・アリー・カーン全インド・ラジオ録音。
  • 1992年: パンディット・ジャスラージがインド政府パドマ・ヴィブシャン受章。
  • 2009年: ビーム・セーン・ジョーシー死去で時代の終焉。

派生・影響

トゥムリー・ガザル・ボリウッド古典歌のラーガ的素材となり、現代インド器楽(シタール・サロード)の演奏様式にも反映される。

音楽的特徴

楽器声、ターンプラ、タブラ、ハルモニウム、サーランギー

リズムヴィラムビット(緩)とドゥルット(急)の二部構成、ターン(高速旋律)、エクタール・ティーンタールなどのターラ

代表アーティスト

  • クマール・ガンダルヴァインド · 1947年〜1992
  • パンディット・ジャスラージインド · 1952年〜2020
  • キショリ・アモンカルインド · 1960年〜2017

代表曲

日本との関係

日本インド古典音楽が知られるきっかけはラヴィ・シャンカールのシタール演奏だったが、カヤールの声楽形式はより知名度が低い。一部の音楽学校やワークショップでタブラーやシタールを学ぶ人の間で、理論として参照されることがある。

初めて聴くなら

キショリ・アモンカルの『Raga Bhairavi』(1985年)は朝のラーガで、穏やかな旋律と豊富な装飾が特徴だ。まず20分だけ聴き、声がどのように音の空間を作っていくかを追う。クマール・ガンダルヴァの『Nirguni バジャンs』(1965年)は形式が少し自由で、初心者にも入りやすい。

豆知識

ガラナ(流派)制度では、同じラーガでも師匠の系統によって装飾の付け方・テンポの取り方・強調する音が異なる。グワーリヤル・ガラナは素直な旋律美を重視し、キラナ・ガラナは音の持続と倍音を重視するとされる。現在でも「どのガラナか」は演奏者のアイデンティティの核心だ。

影響・派生で結ばれたジャンル

ジャンル関係図1200年代1450年代1700年代1780年代1850年代カヤールカヤールヒンドゥスターニー古典ヒンドゥスターニー古典ドゥルパドドゥルパドタッパータッパートゥムリートゥムリー凡例派生影響同系統
凡例
派生影響同系統
カヤールを中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

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インド · 1700年前後 (±25年)

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