宗教・霊歌

グレゴリオ聖歌

Gregorian Chant

ヨーロッパ全域 / 西ヨーロッパ · 750年〜

別名: Plainchant / Cantus planus

ローマ・カトリック教会のラテン語典礼で歌われる単旋律の無伴奏聖歌。中世西方教会音楽の基層をなす。

どんな音か

中世西方カトリック教会の典礼で歌われる、無伴奏・単旋律(全員が同じメロディを歌う)の宗教歌。ラテン語の聖書テキストや祈祷文に旋律を付けたもの。テンポは厳密に決まっておらず、言葉のアクセントとブレスで自然に流れる。男声合唱(修道院では1〜30名規模)が中心で、女声(尼僧)バージョンもある。録音は教会の長い残響(2〜8秒)を活かして、音と音の隙間が音楽の一部になる。記譜は「ネウマ譜」という現代の五線譜とは違う独自の記号で書かれる。

生まれた背景

6世紀末の教皇グレゴリウス1世が、各地の典礼旋律を整理・統一したという伝承から「グレゴリオ聖歌」と呼ばれる。実際の編集はカロリング朝(8〜9世紀)のフランク王国時代と考えられている。中世を通じて修道院が主要な伝承の場で、9世紀の聖ガレン修道院、13世紀のシトー会などが録音史の前の時代に手稿譜を残した。20世紀初頭にフランス・ソレム修道院が学術的な復元を行い、現在歌われるグレゴリオ聖歌の標準形を確立した。

聴きどころ

言葉のアクセントとメロディが完全に同期している。たとえば3音節の「Kyrie」が、ki-ri-eと弱強弱に対応するように音が動く。曲によっては1音節に20音以上のメロディ(メリスマ)が付き、空中に文字が浮かぶような感覚になる。教会の残響が消えてから次のフレーズが始まるので、沈黙も音楽の一部。

発展

9世紀以降フランク王国でネウマ譜が発達し、11世紀のグイド・ダレッツォによる四線譜と階名唱法でレパートリーが固定化された。中世盛期にはオルガヌムなど多声音楽の母胎となり、ノートルダム楽派以降の西洋ポリフォニーの礎を築いた。トリエント公会議(16世紀)で典礼書が標準化されたが、19世紀末ソレム修道院のドン・ゲランジェ、ドン・ポティエ、ドン・モクロー(モクロー)らによる古写本研究で旋律と自由リズム解釈が再生された。第2バチカン公会議(1962-65)により母語典礼が許容されてからは典礼での比重が低下したが、修道院や復古主義的潮流の中で生き続けている。

出来事

  • 590: 教皇グレゴリウス1世即位、伝承上のグレゴリオ聖歌体系化
  • 800: カロリング朝下でローマ典礼歌が西方教会標準となる
  • 1030頃: グイド・ダレッツォが四線譜と階名を整備
  • 1903: 教皇ピウス10世自発教令『Tra le sollecitudini』、聖歌の典礼での首位を再確認
  • 1962: 第2バチカン公会議開幕、母語典礼導入
  • 1994: アンソニー修道院盤『Chant』が世界的ヒット

派生・影響

西洋ポリフォニー音楽全体の母胎となり、ミサ曲・モテット・オルガン音楽の主題素材として近現代まで引用された。20世紀末には『カント』ブームでアンビエント音楽やニューエイジ系作品に取り入れられ、サンプリング素材としてもポピュラー音楽に広まった。

音楽的特徴

楽器男声斉唱(無伴奏)、稀にオルガン伴奏

リズム自由リズム、教会旋法、ネウマ譜、シラビック~メリスマティック

代表アーティスト

  • Hildegard von Bingenドイツ · 1140年〜1179
  • Choeur des Moines de l'Abbaye Saint-Pierre de Solesmesフランス · 1833年〜
  • Schola Hungaricaハンガリー · 1969年〜
  • Anonymous 4アメリカ合衆国 · 1986年〜2015

代表曲

  • Ave Maria (Gregorian)Choeur des Moines de l'Abbaye Saint-Pierre de Solesmes
  • Salve ReginaChoeur des Moines de l'Abbaye Saint-Pierre de Solesmes
  • O Virtus SapientiaeHildegard von Bingen (1150)
  • Columba aspexitHildegard von Bingen (1158)
  • An English LadymassAnonymous 4 (1992)
  • Veni Creator SpiritusChoeur des Moines de l'Abbaye Saint-Pierre de Solesmes

日本との関係

カトリック教会では『Veni Creator Spiritus』など主要曲をいまも典礼で歌う。1990年代に西スペインの修道院の録音『Chant』(1994)が世界的にチャート1位になり、日本でも100万枚を超えるヒットになった。現在は瞑想・睡眠用のBGMとして配信プラットフォームで聴かれるケースが増えている。

初めて聴くなら

1曲なら、ソレム修道院聖歌隊『Kyrie XI(Orbis factor)』。短いミサ通常文の代表。アルバムなら、Choir of the Monks of Santo Domingo de Silos『Chant』(1994)。長尺で集中したいなら、Schola Hungarica『Hildegard von Bingen: Symphoniae』。

豆知識

現代の五線譜の起源は、11世紀イタリアの修道士グイド・ダレッツォがグレゴリオ聖歌を教えるために考案した4線譜にある。彼は「Ut(後にDo) Re Mi Fa Sol La」のソルミゼーション(階名唱法)も発明した。つまり「ドレミファソラ」というあの読み方は、グレゴリオ聖歌教育用に1000年前に作られた仕組み。

影響・派生で結ばれたジャンル

グレゴリオ聖歌を中心とした近傍図。中心と直接結ばれるエッジが強調表示されます。

グレゴリオ聖歌 の系譜全体図(多段)を見る

ジャンル一覧へ戻る