グレゴリオ聖歌
ローマ・カトリック教会のラテン語典礼で歌われる単旋律の無伴奏聖歌。中世西方教会音楽の基層をなす。
どんな音か
中世西方カトリック教会の典礼で歌われる、無伴奏・単旋律(全員が同じメロディを歌う)の宗教歌。ラテン語の聖書テキストや祈祷文に旋律を付けたもの。テンポは厳密に決まっておらず、言葉のアクセントとブレスで自然に流れる。男声合唱(修道院では1〜30名規模)が中心で、女声(尼僧)バージョンもある。録音は教会の長い残響(2〜8秒)を活かして、音と音の隙間が音楽の一部になる。記譜は「ネウマ譜」という現代の五線譜とは違う独自の記号で書かれる。
生まれた背景
聴きどころ
言葉のアクセントとメロディが完全に同期している。たとえば3音節の「Kyrie」が、ki-ri-eと弱強弱に対応するように音が動く。曲によっては1音節に20音以上のメロディ(メリスマ)が付き、空中に文字が浮かぶような感覚になる。教会の残響が消えてから次のフレーズが始まるので、沈黙も音楽の一部。
発展
9世紀以降フランク王国でネウマ譜が発達し、11世紀のグイド・ダレッツォによる四線譜と階名唱法でレパートリーが固定化された。中世盛期にはオルガヌムなど多声音楽の母胎となり、ノートルダム楽派以降の西洋ポリフォニーの礎を築いた。トリエント公会議(16世紀)で典礼書が標準化されたが、19世紀末ソレム修道院のドン・ゲランジェ、ドン・ポティエ、ドン・モクロー(モクロー)らによる古写本研究で旋律と自由リズム解釈が再生された。第2バチカン公会議(1962-65)により母語典礼が許容されてからは典礼での比重が低下したが、修道院や復古主義的潮流の中で生き続けている。
出来事
- 590: 教皇グレゴリウス1世即位、伝承上のグレゴリオ聖歌体系化
- 800: カロリング朝下でローマ典礼歌が西方教会標準となる
- 1030頃: グイド・ダレッツォが四線譜と階名を整備
- 1903: 教皇ピウス10世自発教令『Tra le sollecitudini』、聖歌の典礼での首位を再確認
- 1962: 第2バチカン公会議開幕、母語典礼導入
- 1994: アンソニー修道院盤『Chant』が世界的ヒット
派生・影響
西洋ポリフォニー音楽全体の母胎となり、ミサ曲・モテット・オルガン音楽の主題素材として近現代まで引用された。20世紀末には『カント』ブームでアンビエント音楽やニューエイジ系作品に取り入れられ、サンプリング素材としてもポピュラー音楽に広まった。
音楽的特徴
楽器男声斉唱(無伴奏)、稀にオルガン伴奏
リズム自由リズム、教会旋法、ネウマ譜、シラビック~メリスマティック
代表アーティスト
- Hildegard von Bingen
- Choeur des Moines de l'Abbaye Saint-Pierre de Solesmes
- Schola Hungarica
- Anonymous 4
代表曲
- Ave Maria (Gregorian) — Choeur des Moines de l'Abbaye Saint-Pierre de Solesmes
- Salve Regina — Choeur des Moines de l'Abbaye Saint-Pierre de Solesmes
- O Virtus Sapientiae — Hildegard von Bingen (1150)
- Columba aspexit — Hildegard von Bingen (1158)
- An English Ladymass — Anonymous 4 (1992)
Veni Creator Spiritus — Choeur des Moines de l'Abbaye Saint-Pierre de Solesmes
日本との関係
初めて聴くなら
1曲なら、ソレム修道院聖歌隊『Kyrie XI(Orbis factor)』。短いミサ通常文の代表。アルバムなら、Choir of the Monks of Santo Domingo de Silos『Chant』(1994)。長尺で集中したいなら、Schola Hungarica『Hildegard von Bingen: Symphoniae』。
